extra1)豊平区豊平 鷹の湯
未曽有の出来事というものは起こる。個人的に言えば、被災するのは3カ月ぶり2度目である。
基本的には、訪れた銭湯の記事は数週間から数カ月のタイムラグがあるのだが、今回はスピード命と思い書いている。
北海道の大地震(名称が決まったらしいが情報が届いていない)による停電が居候先で解消されたのは1時間前だ。よかったよかった。が、そんなことはどうでもいい。
大事なのは、出会いの湯『鷹の湯』の迅速な対応について。そして、そこで体験した「非日常の中の日常のありがたさ」である。
推敲はしない。出会いの湯『鷹の湯』名前だけでも覚えて帰ってほしい。
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電気がなければ、お湯が沸かない。
お湯がなければ、ガスで沸かせばいいじゃない、と思ったあなたはアントワネットの素質があるので、ギロチンにかけられればいいと思うよ。
と、いうことはシャワーもアウト。お風呂もアウト。
9月の札幌とはいえ、気持ちがいいとは言えない。情報を得るものも、災害用ラジオといつ切れるかわからないスマホが関の山である。停電。充電。あっ!!
バッテリーが切れかけたスマホを使ってTwitterで復興情報を調べる。
リツイートをしてくれていたのはサンボマスターの山口さんだっただろうか。
「豊平区豊平 鷹の湯 営業中」
まさか!!!
道をはさんで2本の居候先はまだ停電中だぞ!!!
でも、これが本当だったら!!!
満州育ちの母と「まあ、開いてなかったらしょうがないよね」と言いつつ、胸を膨らませながら鷹の湯へ向かう。エレベータが止まっているのでもちろん階段をえっちらおっちら下って。8階分でよかったー!19階より11階分少ないもん!(前向き)
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のぼりが立っている。
車が停まっている。
男たちがだべっている。
鷹の湯はやっている!!!!!!!
非日常に強がりながら、元気だとうそぶきながら、つらい人はもっとたくさんいるといいながら。「私たちはもっとつらい目に合ったもんね」と慰めあいながら。目に浮かぶ涙のわけが母子ともにわからない。ただただありがたい。
番台のおかみさんは言う。
「いや、午前中に電気は回復したから……」
いやいや、あんたら、そこから数時間で営業始めてるぢゃねえか!あんたらだって、不安な夜を過ごしたぢゃねえか!
それなのに、「いや、普通に営業できるから営業した」という感じでおかみさんはいうのだ。
仕事だから、あたりまえなのかもしれない。ただあたりまえをするために犠牲にしたものがあるはずなのだ。
あなただって被災者なのだから。
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いつもよりももちろん人はいっぱいいる。
日頃は銭湯に行かない人たちもいるだろう。私も行かなかった。けれど、今日はみんなが風呂に入れる喜びに体と心をゆだねている。鷹の湯の熱い風呂・少し熱い風呂・水風呂に。
いや、水風呂入っている人ほとんどいなかったわ。水風呂がいいのに、鷹の湯は。
人が混んでいるだろうから、いつものルーティンはできないと思いきや、サウナに入る人がほとんどいない。
サウナは1人占め状態である。
これ見よがし。股はおっぴろげ、口はあんぐらり、目はとんとろりん。かつてないほどだらしない格好でサウナを堪能できる。
そんな1人下品なマリリンモンロー状態の中、1人の青年と出会った。(会話は交わしていない)
サウナに入ると1言。
「熱い!」
座って1言。
「熱い!」
でしなに1言。
「想定外に熱すぎる!」
刹那の出来事だったのだが、あまりにもかわいい姿に微笑んでしまった。「3カ月前は俺もそうだったんだよ」と。
彼がサウナ上がりに水風呂に入ってくれていればいいが……
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どんなに強がっていても非日常の威力はすさまじい。非日常が牙をむけばむくほど、日常のありがたみに気がつける。
その日常の象徴は、私にとって『鷹の湯』だ。
カウンターがおかみさんから親父さんにかわっていた。
「日常を取り戻せました。営業してくれてありがとうございます」
心からの感謝を初めて伝えることができた。
いつもはあまり笑わない親父さんが、少しはにかんだように見えた気がした。
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追記
サンボマスターの『あなたが人を裏切るならぼくは誰かを殺してしまったさ』という歌に次の詩がある。
これまでの夜をつなぎ合わせて
それを過去というならば
愛しき君よ
僕は君にその夜の星空の光だけを
見上げていて欲しいのだ
札幌市民の多くが、最高に美しかった停電の星空を眺めていたと思う。オリオン座が超オリオン座だった。