16,白石区東札幌 共栄湯
北海道にはアイヌ由来の地名が多い。
札幌は『サラポロペッ』だとか、そのまま『サッポロ』というアイヌ語が由来になっているそうだし、愛別(あいべつ)という悲しい漢字があてがわれている町の語源も『アイペッ』という単語だという。
くわしくはこちらを参照していただきたい。
アイヌ語地名リスト | 環境生活部アイヌ政策推進局アイヌ政策課
あまりにもアイヌ語由来の地名が多いので、大人になってからしばらくしても「北海道の地名の語源は『すべて』アイヌ語だ」という誤った認識をしていた。
そのため、宮城県の「白石」に初めて訪れたときは衝撃だった。まさに札幌市白石区の語源となっている土地だったからだ。
よくよく考えてみれば、北海道の北広島市だって、広島由来だろうし、札幌手稲区には山口という地名もある。
冷静に考えれば、あたりまえだ。北海道が入植以来、原住民の言葉だけが尊重される土地柄ならば、今なお残るセンシティブな課題など最初から存在していないはずだ。
しかし、内地由来の地名があることがわかった今でも、どうしても模倣(入植者が故郷を思って付けた名なので、決して模倣ではないのだが)に感じてしまい、無意識に避けてしまいがちだ。
北海道は北海道なのだ、そんな心地よい思い込みをするための根拠がアイヌ語由来の地名だったのだろう。
だから、アイヌ語源、つまり、北海道オリジナル地名を宮城県白石訪問でまざまざと否定されたことは大きな衝撃だった。そのとき食べたうーめんの味も思い出せないほどだ。
ここには札幌市民にもほとんど知られていないある事実がある。
それは
『銭湯のレベルが総じて高い』
ということだ。
以前、白石区にある4つの銭湯のうち、菊水湯、美春湯の2つについては記事にしている。両者とも大変満足度の高い銭湯だった。そして、今回の項の共栄湯も高いホスピタリティを持つ銭湯だ。
ホスピタリティ
まったく共栄湯にふさわしい英語由来の言葉である。
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ヘアビューザー。
おそらく、これが何を意味するかがわかる中年男性はそう多くないはずだ。私もご多分に漏れていない。
しかし、『ヘアビューザー』以上に共栄湯のホスピタリティの高さを表現する言葉はない。
蛇足かもしれないが、この謎の言葉『ヘアビューザー』とは、簡単にいうと、とってもとってもいいドライヤーのことだ。うさんくさくいうと、使うと若返るという魔法がかった商品だ。だから、高い。
それが、20円で使用できる。こういった心配りが共栄湯のいたるところにある。
行き届いた清掃はいわずもがな、入り口にはお年寄り用にイスが用意してあったり、ロビーには地元向け雑誌が充実していたり、飲料水が蛇口式で冷たくてたっぷり飲めるようになっていたり、休憩用のイスがサウナのそばに置いてあったり、など挙げていけばキリがないほどである。その1つ1つのさりげない発想に頭が下がる。
もちろん共栄湯はサービスが充実しているだけではない。
あつ湯・ぬる湯・超ぬる湯。そして、熱すぎないサウナに広い水風呂。さらに冷たい水シャワー。
これだけ充実した銭湯だ。常連客も多い。子どもも多い。おしゃべりもある。求道者もいる。湯屋の華も咲いている。誰もが思い思い過ごしている。
設備は現代的でありながら、公衆浴場の匂いが漂う。常に変わりながら、でも変わらないものを大切にする強い意志。それがこの雰囲気をかもしだしているのかもしれない。
四の五の書いてしまったが、銭湯者を目指す中年男性が銭湯ですることはたった1つだ。たった1つの単純なこと。
ニルヴァーナである。
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あつ湯→ぬる湯→超ぬる湯→サウナ→おっきな水風呂→冷たい飲料水→イス休憩
サウナ→大きな水風呂でひっそりプカッと浮いてみる→冷たい飲料水(たぶん地下水?)→イスキュウケイ
イスキュウケイ
イスキュウケイ
イーース・キュッ・ケーーーーイ
キュッケーーーーイ
キュッケヨ
アタイキュッケッチュヨ
暖簾をくぐった時点で約束されていたニルヴァーナの訪れ。
キュッケッチュによだれをたらさんばかりに弛緩した己の顔に気づいたとき、すぐそばの超ぬる湯につかりながらぶっ飛んでいる常連さんと目が合った。
どうしてだろう。初めて会った私たちは、ほぼ同時にヘラヘラした。これがバスの中なら変態同士かもしれない。しかし、公衆浴場においてこれ以上ふさわしい表情はない気がした。
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湯上りに、生まれて初めてヘアビューザーを利用してみた。
20代に比べて少しさびしくなった頭髪は過去にないほどふわふわになった。髪の毛が増えたようにすら感じる。
そういえば、共栄湯だけではなく、銭湯に通いだしてからお肌もつやつやになってきた……気もしてきた。そんな幸せな勘違いも含めて、共栄湯は私をとても甘い気持ちにさせてくれる。
これが440円だっていうんだから、世の中まだまだ捨てたもんじゃない。という気づきは、きっと勘違いではないと思うのだ。
次回、中央区南4条『喜楽湯』