21,中央区北10条 さかえ湯
銭湯とスーパー銭湯の違いは何か。
ここらあたりの基礎知識が不足している。
銭湯は公衆浴場である。かの地震において、公衆浴場の１つの形態とされる風俗街の湯屋は一般客入浴の受け入れを行った。
この公衆性というやつが違いを生むのかというとそう簡単でもない。スーパーも非スーパーも公衆浴場であることに変わりはないらしい。普通公衆浴場だって、その他の公衆浴場だって、公衆浴場なのだ。法律は難しい。
ということは銭湯とスーパー銭湯の関係性は以下のように説明できるはずである。
①悟空はスーパーサイヤ人になれた。（A=B）
……絶対違う。
足りない頭を抱えながら、銭湯とスーパー銭湯の区別の糸口さえつかめない。それなのにさらなる深淵に踏み込まざるを得なくなった。
原因は『さかえ湯』である。
スーパー銭湯ではなく、銭湯である『さかえ湯』。
ここがスーパーでないならば、なにがスーパーだというのか。
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札幌の観光名所を挙げていくと、何番目かに必ず「場外市場」という場所にぶち当たる。正確には「札幌市中央卸売市場 札幌場外市場」というらしい。
食べたい。
圧倒的に食べたい。
そんな市場を支える方々を支えているのが『さかえ湯』である。
だから、なのだろうか。一歩足を踏み入れたときから施設の規模に圧倒される。スタンプラリーの冊子を出しながら、思わず「ここは銭湯ですか？スーパーじゃなくて？」と聞いてしまった。
ロビーの受付は２名（３名だったかも）。複数対応である。穏やかな笑顔を浮かべながら、私の愚問に「ええ、銭湯ですよ」と答えてくれた。そのたたずまいはベテラン仲居と言っても差し支えあるまい。
ロッカーはスーパー銭湯御用達。例のカギをゴムの中に入れるリストバンド方式である。ここがスーパーでないならば、スーパーな銭湯とは一体何なんだ？旅館か？
そんな疑問を抱きながら、浴室へと向かう。
「これ、やっぱり銭湯かいな？」
中年男性の独り言は止まらない。
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炭酸泉の人工温泉やら、露天風呂やら、露天風呂の横には外気浴できる広いスペースやら、熱々のサウナやら、バイブラってないキンキン水風呂やら、タトゥーお断りやら、１人１人仕切られている洗い場やら。
声を失う理由を数え上げればきりがない。
こんなもん、ニルヴァれって言われているようなものだ。
ここまであからさまにニルヴァれっていうなら、ニルヴァるよ。ニルヴァれるところまでニルヴァるよ。みなまで言わなくてもわかったよ。
ソーレ、ニルヴァレニルヴァレ
ニルヴァチャッテ、ニルヴァチャッテ
ハズカシカラズニゴイッショニ
ソーレ、ソレソレニルヴァーナ
ポンパッ！！
気がついたときには露天風呂横の休憩スペースで、丸出しで、むき出しで、イスに寝転がっていたのは言うまでもない。
外気浴ってやっぱり素晴らしいと改めて思った。
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さかえ湯は場外市場のそばにあるが、観光客の利用はどれくらいあるのだろうか。札幌に来て、海鮮を食って、その足で銭湯に行くプランがあるとは思えない。きっと、さかえ湯のメインターゲットは市場の人々だ。あくまで推測だが。
これはもったいない。
想像してほしい。
お昼にカニを食べて、徒歩０分でひとっぷろ浴びる。
ニルヴァーナを４４０円で散々味わったのに、まだまだ今日はたっぷり残っている。
すっきりした体で地下鉄ですすきのに移動だ。あなたの夜はこれから始まるのだ。
さかえ湯から歩いて１０分の場所に二十四軒駅がある。札幌の交通の生命線である地下鉄を味わうのも一興だ。そして、札幌の地下鉄の車輪がタイヤであることをその目で確かめてほしい。これで１つ土産話ができるはずだ。
大通駅を降りると、そこで雪まつりが行われているかもしれない。それともホワイトイルミネーションだろうか。
少し外を歩いていると、風呂に寄ったおかげなのか、あなたのお腹にはお昼に食べたカニの姿は消えてしまっている。お酒に少し早い？どんな時間からでも、すすきのでは酒が飲める。旅の恥はかき捨てだ。陽のあるうちに、ウニだ、ホッケだ、ジンギスカンだ！1杯目には、サッポロクラシックをクーっと流し込むのがいいだろう。
……少し興奮してしまった。
なにはともあれ、風呂のあとのビールはうまい。その事実に比べれば、スーパーだろうとスーパーでなかろうとどうでもよいことかもしれない。
次回、北区北31条『奥の湯』
