札幌(とか)の銭湯を(おふろニスタが)行く

家が火事になりましてね。風呂がないんですよ。で、チャリで札幌の銭湯を巡っていたら、いつの間にかおふろニスタになっていました。中年男性がお風呂が好きだと叫ぶだけのブログです。

27,中央区南17条 伏見温泉

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いつの間にか覚えていたカタカナ語はたくさんある。

たとえば、アイデンティティ

誰に教わったのか、いつ知ったのか、まったく思い出せない。『アイデン&ティティ』が上映される頃にはすでに知っていた気はする。しかし、自己同一性について友人と語り合った記憶はない。

たとえば、ゲシュタルト崩壊。プライオリティにコンプライアンス

これらの単語はどこから来て、どうやって私の中に入ってきたのだろう。カタカナ語の知らず知らずの浸食は、決して心地のいい体験ではない。抵抗をし続けなければ、恥ずかしげもなく「エモい」とか言い出す中年男性になってしまいそうだ。

だが、『伏見温泉』について書こうとするとどうしても外来語を使わねばならない。悔しいが、思いついた言葉がそれらしかなかったのだ。

それが「ドッペルゲンガー」、そして「デジャヴ」。

世界には自分に似た人間が3人いるという。

夢で起こった出来事が現実で起こったかのような既視感を覚えるときがあるという。

これらの体験が銭湯でもたらされるとは、ついぞ思いもつかなかった。

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札幌の伏見地区界隈は瀟洒な住宅街のイメージがある。こちとら東の人間(札幌市民は豊平川を挟んで東側と西側を感覚的に分けている。詳細は『2、南区澄川 風呂~楽』の枕を参考にされたし)には、それがいささか鼻につく。

しかし、どんなに強がっても実際に訪れると緊張してしまう。まったく残念なメンタリティだ。

自転車で伏見地区をうろうろきょろきょろどきどきしながら走っていると、とっぷりと日も暮れ、体もちょうどよく疲れてきた。

そんなとき、見えてきたのが写真の伏見温泉である。

「どれどれ、どんな銭湯なんだい?」

中央区伏見地区をななめに見ながら、ニルヴァーナの予感に身も震える思いだった。

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「あれ、俺、ここ来たことあるぞ」

全裸になっての最初の感想である。ふいに訪れるデジャヴ。だが、かつて私が伏見温泉に来たことはない。でも、ここを知っている。

時間ですよ、の既視感ではない。鶴の湯のタイムスリップ的既視感でもない。なんだ、これはいったい。

初めての銭湯で覚えたいくつかの違和感とは異なるのだが、居心地がいい。そんな場所は初めてである。

とはいえ、ここは銭湯だ。ニルヴァーナへ向けての列車はもう走り始めている。私はもうまる出しの中年男性だし、湯船には透き通るお湯で満たされている。戸惑っている場合ではない。賽はすでに投げられているのだ。

メインの浴槽は、湯の循環がオブジェになっている。ビジュアルにこだわっている浴槽が瀟洒な場所の銭湯たるゆえんだろう。

湯の循環がオブジェ……?

ビジュアルにこだわっている……?

 ああ、そうか。ここはあそこにそっくりなのだ。かつて少年時代に走り回り、叱られた場所。大人になって訪れるとサンタローズのように小さく感じた場所。

そう、豊平区平岸 千成湯 である。

瀟洒な地、伏見の洒脱な銭湯と、幼少期から利用していた千成湯がそっくりだという事実が、妙にうれしい。主浴副湯、サウナ、水風呂の位置が瓜二つだ。

デジャヴではなかった。ドッペルゲンガーだったのだ。

では、サウナはどうだろう?

既知の場所のような心持でサウナに入ったが、1段目が広く、温度計は90度を指しているがぬるく感じる。勝手にドッペル言っては見たものの、やはり別の場所にある別の銭湯なのだ。よく見てみると、伏見温泉は千成湯より一回り広いようだ。

ぬるく感じるサウナだとはいえ、だくだくと汗が出てくる。経験上、汗の量は深いニルヴァーナにつながっている。さて、水風呂だ。

千成湯の水風呂はチンチンのぶくぶくだった。まったくの大人向けの水風呂だ。ドッペルかに思えた伏見温泉はさらに上回るほどのチンチン水風呂だった。

「ぶっはぁ!」

声が出るほどの水温。そして、バイブラ。

望月湯、七福湯に続く最凶水風呂の誕生である。現時点での札幌三凶水風呂が決まった瞬間であった。これが遠くニルヴァーナの地でたどり着いた悟りである。

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札幌の銭湯をめぐって、各銭湯の差異とともに類似性にも気がつく。

お互いの銭湯で交流があるのかどうかは私には知りようもないが、長年の営業のうちに精選されていくと自然発生的に差異や類似性をもつものなのかもしれない。

経験を重ねることで初心を失い、傲慢さが生まれている自分を感じている。だが、経験を重ねて見えてくることもあるのも、また事実なのだ。

しめが少しエモくなってしまった。やれやれである。

次回、手稲区曙『あけぼの湯』