札幌(とか)の銭湯を(おふろニスタが)行く

家が火事になりましてね。風呂がないんですよ。で、チャリで札幌の銭湯を巡っていたら、いつの間にかおふろニスタになっていました。中年男性がお風呂が好きだと叫ぶだけのブログです。

37,西区発寒 滝の湯

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やってくれたな。

逆恨み甚だしいことはわかりつつ、湧き上がる感情は抑えられない。ペダルを踏みこむ脚に余計な力が入る。

しかし、私は悪くない。そもそも感情にいいも悪いもないのだ。どんなことにも怒っていいし、何に対しても楽しんでいい。それを声に出したり、行動に移したりすると話が変わるだけだ。

大事なことなのでもう1度確認しよう。

どんな感情でも抱いていいのだ。殺意だろうと、憎悪だろうと、愉悦だろうと、かまわない。それを表に出しさえしなければ。

……出っちゃってる。

1行目で感情が出ちゃっている。

どうしてかは、『36,西区琴似 扇の湯』を確認してほしい。

感情の奴隷。なんと情けないおじさんであろうか。

しかし、制御の利かない感情が生むななめの視点は押さえつけようがなかった。

ーーーーーー

音楽のない滝の湯の浴場に響くは、常連客さんの話し声だ。

静かな銭湯、にぎやかな銭湯、音楽の流れる銭湯、テレビの音が聞こえる銭湯。銭湯にはいろいろな音がある。

ただ、この日の私は話し声が聞こえる銭湯にチャンネルを合わせるのが難しかった。

ささいな出来事だ。だが、その小さな出来事を受容できない。

こんな日もある。

そう思いたかった。

でも、思い起こせば、そんな日ばかりを過ごしているのかもしれない。

私は不満をどこかから見つけ、なにかに怒っている大人になってしまった。感情の赴く子どものまま、ついに寛容さを失ってしまった。

シャワーで体を流しながら、自分の情けなさに悲しくなってくる。今度は悲しみの制御がうまくいかない。

ーーーーーー

全裸の中年男性が心のざわめきに翻弄されている。思考も散漫なまま、主浴へと歩を進める。

「俺は今何をしているのだろう?何のためにここに……」

……

…………

あっちーって!!

ああ、そうだ。俺はおふろに入りにきているんだ。目が覚めた。

ちょっとびっくりした。

心も体も準備がまだだったんだな。そうかそうか。よし、じゃあまず副湯から行くか。

あっちーって!!

まてまて、いや、そこまで熱くはないぞ。どうした俺の体。今までもっと熱いふろに入ってきたじゃないか。

でも、なんか今日、我慢できないな。じゃあ薬湯にしよう。ね、そこから始めましょ。

だから、あっちーって!!

うん、ちょっと水風呂入って落ち着こう。

ひゃっ、キンキン!

体を温めずに入る水風呂ってもしかしたら初めてかも。うむうむ。合ってきた!チャンネル合ってきた!

よし、じゃあ改めて主浴行ってみよう!

うん、熱い。でも、大丈夫。入れるくらいの熱さじゃないか。藤の湯だって、鷹の湯だって、大照湯だって、入れたんだもの。冷静になったら、ぜんぜん大丈夫。

副湯だって、薬湯だって、たしかに熱めではある。でも、どうしてあんなに体が反応したんだろう?

一連のながれが、まるで滝の湯が「まぁ、落ち着きなさいよ」と私に語り掛けてきているようだ。

そう、銭湯は非日常の場ではない。日常の延長線上にあるところだ。

生きていると、もちろんいい日もあれば、悪い日もある。そして、どんな日であろうとまるごと私の日常だ。よくもわるくもそれは仕方がないことだ。

銭湯はいつもそのちょっと先で待っていてくれている。

滝の湯。八つ当たりして、ごめんね。

ーーーーーー

感情のコントロールを取り戻し、サウナへと向かう。

入った瞬間、柑橘の匂いが鼻に飛び込む。

思い起こせば、耳に、肌に、と刺激を与えられ続けている。滝の湯はサウナで嗅覚まで刺激してくれる。

こんなのいいに決まっている。

ああ、いいよ。

とてもいい。

ささくれだった私の中身が柔らかさを思い出してきている。

行こう。キンキンの水風呂へ。

ブハッ!

いい!

とってもいい!

あれ?

そういえば、俺、なんでささくれてたんだっけ?

なぜ生きていくのかを迷った日のあとのささくれ?

夢追いかけ走って転んだ日のあとのささくれ?

糸?

糸だった?

イトダッタ?

オレイトダッタ?

タテノイト?

アナタタテノイト?

タテノイトハアナタ?

ヨコノイトハワタシ?

シアワセ―シアワセ―

コレヲシアワセトヨビマスー

うん、1発でニルヴァーナがきたよ。

ーーーーーー

豊平川沿いのサイクリングロードを使って帰路についた。

長い長い一本道だ。

行きとは心持ちが違う。世界の見え方も少し違うような気もする。違わないような気もする。

これが大事だ。気難し屋の私には、おふろの後のこの気持ちがありがたい。

つまり

どうでもいいじゃん

だ。

さ、うまいもの食って、ビール飲もー。

次回、38,東区北17条 美香保湯