札幌(とか)の銭湯を(おふろニスタが)行く

家が火事になりましてね。風呂がないんですよ。で、チャリで札幌の銭湯を巡っていたら、いつの間にかおふろニスタになっていました。中年男性がお風呂が好きだと叫ぶだけのブログです。

せん湯とごはんvol.7)中央区南4条『喜楽湯』と『サッポロ一番味噌らーめん』

f:id:tkasaiii:20201014162835j:plain

起きたら朝だった。

確か私は昼寝をしていたはずだ。

せっかくの平日休み。気が重い予定をキャンセルして、軽やかに羽を広げられるように段取り、どこまでも自由の風に吹かれて飛んでいく。そのための昼寝だった。

でも、起きたら朝だったのだ。

ぼーっとしながら、なんとか夢と現実をすり合わせていく。いつも以上に地球が私を引っ張る。重い頭を振ると激烈に首が痛んだ。信じたい嘘、合わない枕、帰れないサヨナラ。

『目を開けてみる夢にこそ意味がある』

そんな言葉、私にはいらない。なにせ目を閉じてみる夢の中にいつまでもいられたら、こんな体の痛みに苛まれることなどないのだ。

ーーーーーー

仕事は午後から。

この痛みをどうにかする方法はないか。

そうだね。

喜楽湯だね。

ーーーーーー

今日の狙いは「電気風呂」だ。

琴似温泉の項で紹介した電気風呂の伝道師けんちんさん。

その存在を知ってから、幾度となく戦いを挑み、幾度となく敗北し、ついにはほとんど入らなくなってしまった電気風呂。

しかし、今がそのときだ。

WWEで王者となったASUKAこと華名も治療やケアに低周波マッサージを取り入れているのだ。

ということはASUKAと同じ歳の私にも効果があるということになる。というか、私はほぼASUKAなのかもしれない。そういえば、はじまりはいつも雨だったし、晴天を誉めるなら夕暮れを待ったし、今からそいつを、これからそいつを殴りに行くことだってやぶさかではないのだッ!!

ーーーーーー

今回、私が行うのは『びりびりサンセット&ジャイアントセット』。

ジャイアントセット』は前回書いたので割愛するとして、前者について説明しよう。

『びりびりサンセット』とは『電気風呂→水風呂→休憩』を3セット行うという何のひねりもない文字通り『びりびり』を『サンセット』することである。

この『びりびりサンセット』の最後の休憩を省き、そのまま『ジャイアントセット』になだれこむという命知らずの入浴法こそが『びりびりサンセット&ジャイアントセット』である。

これを行うことにより、冒険野郎にしか拝むことのできない夕暮れが見られたり、見られなかったり、はっきりさせなくてもよかったり、あやふやなまんまでよかったり、ぼくたちははっきりと生きていたり、そもそも思いついたのがついさっきだったり、しなかったりする中年男性にはいささか刺激が強すぎる危険なテクニックなのだ。

いざッ!!

主浴と上の水風呂で『びりびりサンセット』、地下サウナと地下水風呂で『ジャイアントセット』じゃいッ!!

ーーーーーー

主浴の電気風呂は通常の入浴には邪魔にならないよう配置されており、かっちり腰に当たるよう配慮が効いている。

しかし、今日私が痛めているのは首だ。

こう、腰に当たる電気を、あれ、うまく、首に当て、いてて、いてえ、あたんねえし、いてえ、でも、ASUKAが、低周波、いてて、そうか、こうぷかっと浮いて、あたたたた、首っつーか肩甲骨だね、これ、ばりばりする、肩甲骨ばりばりする、

いてえってば!!

もう!なんなんだよ。んだよ、バカ野郎、そもそも俺はASUKAでも、ASKAでもねえよ!

はー、水風呂ー。上のは冷え冷えタイプなんだよねえ。

ほえー。さ、休憩。

あっ、なんかあったかいわ。首は?うーん、治ってきた!かなぁ。どうかなぁ。まあ、やってみよう。

びりびり。

おっ、痛みになれた。

びりびりびりびり。

おっ?首きた?肩甲骨メインだけど、首もきた気がする。

みずぶろひえー。

きゅうけー。

びりびりびりびりびりびり。

気がするけど、どうなんだろう。

治ってきた気がするけど、どうなんだろう。

ひえー。

とにかくびりびりサンセットからジャイアントセットじゃい。

ビリビリサンセットカラ

ジャイアンサンライズアッハハーン

コノママカンジナサウンド

カンジアウサラウンド

ヨガアケルマデ

気がついたらファンカスティックビーツニルヴァーナである。

ーーーーーー

首の痛みが和らいだ。気がする。いつも以上に仕事に励めそうだ。

自転車をこぎ始めると、体には健康的な空腹が広がっていた。

やっぱり何かを食べに行く時間はないなぁ。でも、お弁当はやだ。なんかやなんだよね。じゃあ、レンチン袋ラーメンか。そういえば、とうみょんちゃん(※職場で私が育てている豆苗の歌姫。声がセクシー)も育ってきたから、

f:id:tkasaiii:20201015165111j:plain

あなたの両腕を切り落として、

f:id:tkasaiii:20201015165216j:plain

私の腰に巻きつければ、あなたはもう二度とほかの女を抱けないわ

あ・あ・あ・ああアズナンバーワン!

サッポロアズナンバーワン!

f:id:tkasaiii:20201015165809j:plain

サッポロアズナンバーワンッ!!

サッポロ一番味噌ラーメンッ!!

ーーーーーー

さっきまで生きていた死にたてのとうみょんちゃんと濃い目のスープがからむ。

まんなかに落とした卵も半熟だ。

もちもちの麺の上をもったりとした黄身がふるふると踊っている。

はむ。

うめ。

ずるずる。

はー、うめえ。

やっぱ味噌もうんめええええええ

ぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひずるずるずるぶひぶひぶひぶひずる

ぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひずるずるずるぶひぶひぶひぶひずるぶひぶひぶひぶひでぶ

WRYYYYYYY!!!

WWWWWWWRRRRRYYYYYYYYYY!!!

ーーーーーー

おかしい。

なんかこれ、前に一度見たことがある気がする。

これは一体全体どうなっているんだ。

だが、そんな疑問は浮かんだそばからすぐに捨てた。

『目を開けてみる夢にこそ意味がある』

たしかにその通りだ。

デジャヴもまた、『目を開けてみる夢』なのだ。繰り返される諸行無常。よみがえる性的衝動。

 

……ん?

なんですか?

うるさいですよ。

「書くネタがなくなったからって、前のものとおんなじオチにしたんだろ」なんて、わざわざ指摘しなくていいんですよ。

本当のことを言われると人は一番傷つくって知らないんですか、まったくもう。ぷんぷん。

せん湯とごはんvol.6)中央区南4条『喜楽湯』と『サッポロ一番塩らーめん』

f:id:tkasaiii:20201006154832j:plain

食欲が止まらない。

なまじ量が食べられるために、一度に消えていく食材が多すぎる。

これはお金の問題だけではない。

加齢に伴い、食べたものがそのまま体にこびりつき始めている。

現在、私の体重は過去最大まで増加し、体脂肪率も新記録更新中である。

というのも、私は季節の変わり目に心身のバランスを崩してしまいがちなのだ。

昨年は、気が狂ったように自転車に乗りまくり、筋トレにはげみ、体をいじめぬくことで精神の平衡を保っていた。

今年は、それが食へと転化している。

まずい。

このままでは欲望に飲み込まれてしまう。おふろ・ジャバザハット・ニスタと呼ばれる日々はもうそこまで来ている。

だが、安心してほしい。

そんなとき、札幌市民には己の欲望を合法的に消し去ることができる場所がある。

暴走する前に欲望を吐き出す。たまる前に出す。それもいっぱい出す。これを穏便に行える場所。

「すすきの」だ。

ーーーーーー

コロナの影響もあり、ずいぶんすすきので裸になっていなかった。正確に言えば、すすきののはずれだが。

かつては毎週のように通い詰めたが、ずいぶんと足が遠のいていた。

札幌市内唯一の地下サウナを持つ、怒りと悲しみが存在しない銭湯『喜楽湯』。

2020年から開店時間が11:00と1時間早くなり、午後から始まる仕事の前に行きやすくなった。

久しぶりのかの地への訪問にペダルを踏む脚にも力がこもる。

ーーーーーー

開店が早くなったとはいえ、仕事前ゆえ、カラスの行水になるのは仕方がない。

こういう時間がない場合、私はジャイアントセットを決め込むことにしている。

ジャイアントセットとは、『サウナ→水風呂→サウナ→水風呂→サウナ→水風呂→大休憩』を1セットとして行う、より遠くへ跳ぶための方法だ。

休憩が少ない分、時短になる。そして、これがキマル。おもしろいくらいに。

しかし、ジャイアントセットは明らかに体への負担が大きい。

胸のドキドキは恋と見まごうほどに高まり、気になるあの子を前にしたかのように顔は赤らみ、告白の前くらい体中が汗まみれになる。

中年男性にはいささか刺激が強すぎる危険な時短テクニック。それがジャイアントセットだ。

それでも、やってやる。

やってやってやりまくるんだ。

おろしたての戦車でぶっ放してやろうじゃないか!

いざッ!!

地下サウナ・地下水風呂での地下ジャイアントセットじゃいッ!!

ーーーーーー

やる気に満ちた体で地下への階段を下りる。

珍しく、広々としたサウナ室には人がいない。

久しぶりの喜楽湯。

私だけの贅沢な時間が始まる。

ーーーーーー

相変わらず熱い。

でも、時間短縮にはもう少し熱が必要だ。

サウナマットをしいて1段目に立つ。天井が気になるが、ひとりだからできるわがままな入り方ににやついてしまう。

熱い。

体中の穴という穴が広がっていく。

拡張につぐ拡張。

足元のサウナマットが濡れる。

我慢の限界はすぐにやってくる。

喜楽湯は水シャワーもちんちんだ。

地下水風呂ももちろんちんちんに冷えている。

水の中で目一杯手足を伸ばす。

収縮。

あちこちが縮こまる。

間を置かずにサウナ室へ。

ふたたびの拡張。

そして、ふたたびの収縮。

さらなる拡張。

さらなる収縮。

そして訪れる恍惚。

ソシテオトズレルコウコツ。

ーーーーーー

憑き物がおちた。いつも以上に仕事に励めそうだ。

自転車をこぎ始めると、体には健康的な空腹が広がっていた。

何かを食べに行く時間はないかぁ。でも、お弁当という気分ではないな。職場で電子レンジ使えるから、何か作ろうか。レンチンできれば、袋ラーメンができるな。冷凍野菜とか使えば、ちょっといい感じになるね。たしかシーフードミックスもあったはず。卵をスープに混ぜまぜして、小田巻蒸し風ってのも面白いね。やべ、よだれ。マスクしててよかったー。

職場までの時間、私の頭は食べ物でいっぱいになる。そして、決めた。

あれだ。

あれしかない。

サッポロアズナンバーワン。

サッポロアズナンバーワン。

f:id:tkasaiii:20201007163931j:plain

サッポロアズナンバーワン。

サッポロ一番塩らーめんッ!!

便利な世の中だ。

レンジだけでポロイチができる。

付け合わせに入れたいんげんの色合いも食欲をそそる。

予定通り、卵を混ぜこんだスープは茶碗蒸しのようにふるふるだ。

ひとくちすする。

うめえ!

もうひとくち。

はーうめえ。

はーうめええええええ

ぶひぶひぶひぶひ

ぶひぶひずるずるぶひぶひ

ぶひぶひずるぶひずるぶひぶひずる

ひゃっはー!

最高にハイってやつだッ!!

ーーーーーー

おかしい。

私は喜楽湯に欲望を置いてきたはずだった。

これは一体全体どうなっているんだ。

だが、そんな疑問は浮かんだそばからすぐ捨てた。

なぜなら、お風呂上がりのごはんはうまいからだ。笑顔がこぼれるほどうまいからだ。思わず踊りだすほどうまいからだ。

そして、ポロイチうまいのだ。ゴマの風味がうまいのだ。汁まとう麺がうまいのだ。茶わん蒸しスープもうまいのだ。

のだのだのだともそうなのだ。

それは断然そうなのだ。

サンマのひらきがなんなのだ。

サンマばかりがマンマじゃないのだ。

のだのだのだともそうなのだ。

それは断然そうなのだ。

 

……ん?

なんですか?

うるさいですよ。

あのね、人のことをジャバザハットって呼ぶのはよくないことですよ。知らないんですか?

失礼ですよ、まったく。ぷんぷん。

extra9)白石区南郷通7丁目 美春湯内覧会

f:id:tkasaiii:20200920144017j:plain

どりーむぉん

どりーむぉん

どりーむぉん

どりーむぉん

どりーむぉん

どりーむぉん

どりーむぉん

うぉぉぉおんー

朝から頭の中でエアロスミスが歌っている。

札幌に残る数少ない番台式の銭湯・美春湯がロビー式に改装する。その前に、無料で、誰にでも、改装前の番台式の『今』の、美春湯の内覧会を行ってくれる。今日がその初日なのだ。

起きがけにスティーヴンタイラーが高音を響かせても仕方がない。

『今』は明日には昨日になってしまう。明後日にはもう美春湯の『今』を見ることができなくなる。

これは女房を質に入れてでも行かんといかんのだッ!(独身)

ーーーーーー

札幌では、ここ数日連日の狐の嫁入りに見舞われている。市内のあちらこちらで行われる結婚式に振り回され、多くの人が雨に濡れている。

私もその1人だ。

朝からウキウキしていたが、雨宿りしながらふいに不安が襲ってくる。

「ずぶぬれになってまで番台に座りたかったの?」

「そこまでして誰もいないのに女湯を見てみたいの?」

「ほんと、最低ッ!だから、男子って嫌いッ!」

そう思われてしまわないだろうか。

張り切りすぎだろうか。もっとサクッと、シックに行きたかったのだが、それはもう無理かもしれない。

それでもなお。

それでもなお。

それでもなお、番台に座るというのはロマンなのだ。

ーーーーーー

到着すると共栄湯と共同で製作したというオリジナルTシャツを着た美春湯の方たちが出迎えてくれる。

入口は女湯から。

その時点でわくわくが止まらない。

浴場は男湯とは左右対称。棚の配置やおむつ替えスペースがあったり、パーマ用と見間違える例のドライヤーもある。

壁を隔てて、こんな違いがあったことにさらにうきうきしてしまう。

けっして超えてはいけない脱衣所と浴場の小さな扉たちも、今だけは好き勝手に行き来できる。

おもしろい。

おもしろい。

おもしろいッ!

ーーーーーー

さぁ、これからが本番だ。

「番台に座ってもいいですか?」

「ええ、いいですよ!」

おかみさんからの快諾を受け、いよいよ番台へ。

f:id:tkasaiii:20200920152025j:plain

これが銭湯の番台からの景色か。

これが番台からの景色かーッ!!

ーーーーーー

ここから私は申し訳ないくらいに舞い上がり始めた。

お願いして番台に座る写真を撮ってもらったり(冒頭)、動画を撮ったり、バシャバシャ、きゃっきゃっきゃっきゃっはしゃいでしまった。

ひとりで。

だが、こうなると私は止まれない。

そして、思いついてしまった。

「今なら、男湯から女湯を覗いても許されるッ!!」と。

ーーーーーー

「……すいません、男湯から覗いているぼくの写真を撮ってもらえませんか?」

札幌市議会議員を務める美春湯の藤田稔人(@ToshihitoFujita)さんにお願いしてみた。

「ええ、いいですよ!」

なんてさわやかな笑顔だ。

「どうしますか?男湯から覗きますか?」

俺は何をお願いしているのか……一瞬我に返りそうになったが、もう振り返るのはやめだ。今を逃しては男湯から女湯を覗くことは2度とない。

「はい、ちーず」

f:id:tkasaiii:20200920153057j:plain

モザイクの向こうにはこれ以上ないいやらしい顔を浮かべた中年男性が映っているのだが、見せることはできない。

でも、この写真は家宝だ。

ーーーーーー

死ぬほど楽しかった。

こんな体験ができるとは思わなかった。

町の銭湯は、職場と言うよりは『生活の場』だと思っている。そこを公開してくれる心意気がうれしい。

今回の番台式からロビー方式への移行は、美春湯の方々にとっては、長年苦楽を共にした生活の場が変わってしまうということだ。

それは進化であり、成長でもあり、次へのステップだ。

でも、失ったものはもう戻らない。その事実はご家族にどんな思いをもたらしているのだろうか。

前へ進むということは『未来』へ向かうということだ。『未来』へ向かうということは『今』を『過去』にするということだ。

そんな繊細なターニングポイントに立ち会えたことに感謝したい。

そして、「やったー!男湯から女湯覗いたー!家宝だー!」とはしゃいでしまったことを謝罪したい。

美春湯内覧会は『2020.9.21 22:00~23:00』がラストチャンス。生まれ変わったあとの姿を楽しむ前に、生まれ変わる前の姿も楽しんでみてはいかがですか?

おふろを持たないおふろニスタと、彼の巡礼の年 BOOK1)札幌市南区小金湯 湯元小金湯

f:id:tkasaiii:20200814195411j:plain

今から20年前、私がまだ無軌道な若者だったころ。羊蹄山のふもとでの愚行をときどき思い出す。

羊蹄ふきだし公園。

羊蹄山の名水がこんこんと湧き出す名水の里。高校時代、友人(通称『京極のプリンス』)はその水の味をことあるごとに自慢していた。

「札幌の水はちょっとなぁ」

それを聞き、「へぇ、そうなんだぁ。お前、うるせぇなぁ」と思っていたものだ。

そんな高校生だったある日、バイクの免許を取ったばかりの同級生が私に言う。

「行こうぜ」

「……ああ、行こうぜ」

間髪入れずにそう答えた私に、彼は目をあわせてにやりと笑った。それは『プリンス』の尊厳を踏みにじらんとする下卑た笑みだった。

ーーーーーー

ゼファーはいいバイクだ。

羊蹄山へと続く道はどこまでも広く、ゼファーのまわりを風は撫でつけ、エンジンはどこまでもなめらかだった。

そして、背負っている鞄の中で、セイコーマートで買ったペットボトルがちゃぷちゃぷとなっている。

無敵だと思った。

ーーーーーー

到着した羊蹄ふきだし公園。先客は初老の男性が1名。夏の陽光が木々の隙間を縫って、北海道有数の名水に降り注ぐ。

思わず見とれる光景だった。しかし、私たちにはやるべきことがある。

私は鞄から1Lのペットボトルを取り出し、ラベルを確認する。

Volvic

そこからの狂乱はよく覚えていない。

『ひゃっはー!』

と叫んだかもしれない。

『俺たちはテロリストだッ!!』

とのたまったかもしれない。

何かを叫びながら、私たちはボルビック1Lを羊蹄ふきだし公園の湧き水にまき散らしてしまった。

その愚挙を聞いた『京極のプリンス』は激怒した。

「なんてことすんだお前らは!ぜったいに許さんッ!!」

あれから20年、プリンスの怒りはまだ続いている。

キレる世代と呼ばれた私たちの許されざる夏の記憶だ。

せん湯とごはんvol.3)白石区東札幌『共栄湯』と豊平区豊平『やきとり真』 このエピソードはこちらが初出です

ーーーーーー

「京極……か」

疲れた体を布団にうずめていると、思わずそうつぶやいていた。

今年のお盆はいつもよりも時間がある。

あのとき、純度を下げてしまった1Lの過ち。

それを20年経った今、取り戻したい。

せめてプラマイ0にはしたい。できるならば、京極のプリンスに許しを請いたい。

そのためには「京極の名水」1Lをセイコーマートで購入し、羊蹄ふきだし公園に丁重にまかなければならない。

八百万の神に捧げる御神酒のように。

よし、行こう、京極へ。

チャリで。

そして、京極温泉でトベばよかろうなのだーーーッ!!!

ーーーーーー

出発の日の札幌はどんよりと曇っていた。どうやら午後からは雨になるらしい。

むこう数日の天気予報も芳しくない。

不安定な天候は片頭痛の予感を連れてきている。

前日までの疲れがじんましんとめっぱを呼び込んでいる。

やらない理由ならいくらでも見つかる。

だが、そんな日を何度も何度も繰り返して、たどり着いてしまった今だ。

やるか逃げるかどうする。

やるか逃げるかどうする。

ーーーーーー

豊平川沿いのサイクリングロードを上流へと進む。国道230号線へと至り、ゆるやかな坂を上り続ける。その間、ずっとあたりに不穏な空気が漂う。

湿気。

雨の匂い。

それでも進み続けると、降雨と断言できない程度の霧雨が訪れる。

少しずつ、だが確実に心がへし曲がる。

札幌の広さがうらめしい。まだ私は市内から脱出することすらできていない。

ーーーーーー

豊滝のバス停であまやどりをする。もちろんスヌーピーのハンカチを貸してくれる女性などいない。

そもそも誰もいない。

俺はここから50km走り続けられるだろうか。雨の中、中山峠を越えられるだろうか。

小賢しい計算が頭の中で始まる。あきらめが心を支配しようとしている。妥協という名の打算へ心が傾いている。論理的逃避を肯定しつつある自分が苦々しい。

今までの自分の人生を辿るような思考の道筋。

気がつくと私はすぐそばの『湯元小金湯』へと自転車を走らせていた。

ーーーーーー

私の記憶の小金湯はこんなにおしゃれなフォントを使ってはいなかったような気がする。

古い記憶だ。自分の昔を辿る機会がずいぶん多いことに驚く。

露天風呂改修中につき、100円引き。

今の私にふさわしいアナウンスだ。

心に張り付く敗北感と数々のいいわけ。こんなものを抱えて、小金湯の全力のもてなしを受けるわけにはいかない。これほどまでに消極的な理由での訪問など、失礼極まる。

それを「しょうがない」と心でつぶやくのを止められない私に、大改修が終わったピカピカな露天風呂での出迎えは過剰というものだ。

ーーーーーー

合羽、シャツ、ズボン、パンツ、脱衣所で脱ぐそのすべてが汗と雨と苦汁で濡れている。大人だから涙が出ていないのがせめてもの救いだ。

40℃少しの硫化水素が香る主浴。ジャグジー、超ぬる湯、キンキン水風呂。

そのすべてが私に充足を与えようと頑張ってくれている。だが、それを素直に受け取ることができない。「快」に身を委ねようとすればするほど、申し訳ない気持ちが込み上げてくる。

それでもなお、私は小金湯に来ている。楽しむことがマナーだ。礼儀まで捨て去ってしまったつもりはない。

貸し切りのミストサウナの中で、なんとなく壺をのぞきこむ。すると突然熱い湯気が顔面を襲う。曇るメガネを外し、すぐ横にある注意書きを見ると「のぞいちゃダメ!」と書かれている。

ちょっと笑いながら「だよねー」とつぶやくと体の中に充満する不穏が少しだけ外に出始める。

水風呂で体を冷やし、ドライサウナへと向かう。

ーーーーーー

薄暗いサウナのテレビにはNHKが流れていた。

相撲や野球以外でNHKの番組がサウナのTVに映るというのは実は珍しい。(札幌近郊)

画面の中では、世界的に有名な指揮者が地方の中学校の吹奏楽部の指導をしていた。そんなせっかくの機会なのに、部にはインフルエンザの猛威が振るっているらしい。

休まざるを得ない優秀な演奏者と、残された2番手・3番手。

「どうしてあいつじゃなく、俺が休まないんだ」

そんなセリフを中学2年生がもらす。胸が締め付けられる。

トラブルに見舞われ、部員たちは多くの変更に対応せざるを得ない。世界的指揮者は柔軟なのだ。そして、そのフレキシブルさに振り回されるのはいつも兵隊だ。

無理やり陽の光の下に引っ張り出される日陰者。小さな世界のNo.1でいられなくなった女王たち。

どうなるんだ。

この子たちはどうなってしまうんだ!

でも、あっちいの!

続きが気になるけど、むりー!

あぁ、みずぶろきもちぃい。

ほふわぁ、ぶへぶへ。

って言ってる場合じゃねえ!

ーーーーーー

日陰者の母は言う。

「どうしても成功よりも失敗して傷ついてほしくないと思ってしまうんです」

その後ろで日陰者はうつむいて笑う。何度も自分のさみしさをごまかしてきた者の笑いだ。

「ソロは自分の吹き方があるから、一緒に吹くのは違和感がある。正直やりにくい」と女王は言う。

「あの子のソロは独特だから、合わせるのは難しい」ともう1人の女王は言う。

その間に挟まれた少女は「個性の強い2人があたることも多い。本当はとても怖い」と言う。

それでも発表会は近づく。

どんな発表になるんだろう。

でも、無理なんだってばぁー

ちょっとー、なんなのー。

どうなっちゃうのよー。はぁぁ、みずぶろきもちぃいい。

ぶはぁ、ここでぬるゆなんだけど、そったらこといってるばあいじゃねえよー

ーーーーーー

「私たちが代わりに吹いてもいいですか」

本番当日インフルエンザで倒れた低音部のパートリーダーの代打を自ら世界的指揮者に打診する部員たち。

「いいだろう、さぁ練習だ」

本番。

彼らが今まで届かなかったレベルの演奏。

女王は振り返る。

「今まで私は、私のために演奏をしていた。でも、私の演奏でみんなを輝かせられる」

日陰者は言う。

「いい演奏ができたと思います」

その後ろにいる母の姿を見つけると、駆け寄り、こらえてきた涙があふれだす。

「音楽は言葉を越える」

そうだ。

げんかいをきめてしまうのはいつもじぶんだ。

トドクノダ

キミタチノテハソコマデトドクノダ

アトオジサンモトドイチャッテタ

オジサンモ

キモチイイトコロニ

イツノマニカ

キチャッテター!!

ーーーーーー

ブラバンニルヴァーナに達した後、超ぬる湯、硫化水素の匂いが綺羅星のようにきらめいた。

大満足だ。

これでよかったのだ。

これがよかったのだ。

ケセラセラ

なるようになる

明日は見えない

お楽しみ。

というではないか。

オブラディオブラダ

らいふごーずおん

らららららいふごーずおん

というではないか。

そんな気持ちで小金湯をあとにしようとした瞬間だった。

「あんた、自転車かい?道べちゃべちゃだし、雨じゃんじゃん降ってるよ」

……おばちゃん、見えているよ。改めて言うんじゃないよ。

ーーーーーー

こうして京極巡礼の旅は遠のいた。

だが、いつの日か、道内屈指の名水と再会しようと思う。

……再会すると思う。

再会するんじゃないかな。

ま、ちょっと覚悟はしておけ。

⇒BOOK2へ続く【たぶん】