令和5年、札幌市に新しい橋が架かった。
その名も『北24条桜大橋』
北24条に架かり、右岸には桜の森が広がる最新鋭の橋だ。
この橋が架かる以前。2020年。札幌市は橋の名前を公募していた。私がまだ元気だったころだ。
酔狂なそのころの私は橋の名前を応募していた。
その名も『東雁来桜大橋』
おしいッ!!ニアミスッ!!
そんな新橋を見に行かんと、私は今日も、性懲りもせず、豊平川河川敷のサイクリングロードをひた走ることにした。
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遠いわッ!!
自宅から15kmは遠すぎるぞ、東雁来桜大橋(仮)よ。
しかし、立派になって……
車が走っているじゃあないか。広い空に負けない青じゃあないか。鉄塔がそびえたっているじゃあないか。
これは行くしかない。
風呂に行くしかないッ!!
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かつて毎日のように通っていた鷹の湯。
また、あの熱湯(ねっとう)は私を迎え入れてくれるだろうか。天井の丸窓はあいかわらずだろうか。
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「いらっしゃいませ」
おかみさんの変わらぬあいさつにほっと胸をなでおろす。不安は杞憂にすぎなかった。
脱衣所に向かうのれんをくぐると変わらぬ姿の鷹の湯だ。水飲み場。体重計。ドライヤー。
ん?
綿棒が設置されてる。
あれ?
扇風機が新しくなっている。
そうか、変わってないんじゃない。変わらないでいられるように少しずつ変わっているんだ。
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洗身をして、熱湯へと足を向ける。熱湯は左側の大きい湯船から右側の小さな湯舟に変更されている。これも工夫の1つだろう。
「くッ……」
やはり熱い。声が漏れる。でも、拒否はされていない。記憶にある熱湯と大きな違いはない。
ふう
体が慣れてきたところで、水風呂でひきしめる。
これこれこれこれ!
この温冷交代浴こそが鷹の湯だ!
温冷だ
交代だ
オンレイコウタイヨクダ!!
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さて、サウナに入る前にぬる湯にも入っておこうか。
おや、ぬるい!
ぬる湯がぬるい!
かつての鷹の湯はぬる湯もそこそこのあつ湯だった。しかし、今の鷹の湯はぬる湯がきちんとぬる湯になっている。不感湯より少し熱いくらい?こんなに入りやすい温度の湯が待っているとは思わなかった。
サウナは変わらずぬくいくらいの温度だが、床に熱を帯びないマットが引かれていたり、大きな時計が設置されていたり、とこちらもカスタマイズされている。
やはり変わっている。進化している。
町の銭湯の代表ともいうべき鷹の湯は前へと歩みを進めていたのだ。
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「ありがとうございました」
おかみさんの声を後ろに外へ出る。
青空が広がっている。
また夏が来た。
私が止まっている間も、時間は流れ続けていた。変わらぬ笑顔を見せるために人は成長をし続けなければならない。
未完成だった大きな橋も、今や日常の風景の一部に溶け込むように架かっていた。
私はあのころと変わらずにいられているだろうか?変わらずにいるために何か成長ができているだろうか。そんなことを考えてしまう。
そして、「『東雁来桜大橋』のほうがかっこよかったんじゃないか」と、しつこく何度も考えてしまうのだ。