札幌(とか)の銭湯を(おふろニスタが)行く

家が火事になりましてね。風呂がないんですよ。で、チャリで札幌の銭湯を巡っていたら、いつの間にかおふろニスタになっていました。中年男性がお風呂が好きだと叫ぶだけのブログです。

extra12)豊平区豊平 鷹の湯

 

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大正湯が逝った。

www.kita-no-sento.com

前回のスタンプラリーのテーマとして扱ったばかりだというのに……

この4年で札幌市内で閉店した温浴施設を数え上げてみる。

澄川温泉

緑の湯

山鼻温泉屯田

黒田湯

スパサフロ

菊水湯

風呂~楽

富美の湯

渥美湯

湯めらんど

私が把握しているだけでも10軒。さらに大正湯。

そして、これから極楽湯弥生店、極楽湯手稲店、笑福の湯の閉店が決まっている。

ここまでくるとある不安がよぎる。

鷹の湯は大丈夫か?

なにせ、鷹の湯は7月から(期間限定とはいえ)休業日が増え、閉店時間が30分早い22:00になった。

魚群か……?

これは魚群なのか……?

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22:00閉店だと仕事終わりに寄りづらくなってしまった。私にとってこの30分の短縮はかなり痛い。となると、自然と22時半閉店、もしくはそれよりも遅い時間帯までやっている場所を多用するようになってしまった。鷹の湯から足が遠のく。

だが、心の片隅にはつねに不安があった。

おかみさんが体調を崩したことが原因だったが回復された、とか、親族の方が手伝いをなさる、だとか、魚群とは無関係な休業・時間短縮なのだという情報は耳には届いていた。

それでも心配は心配なのだ。

最近は、若い常連さん(私よりもよっぽど鷹の湯を利用している)も増えてきていたし、椅子も新調していたし、去年の緊急事態宣言のときにはサウナもリニューアルしていた。

悪い方向へ進んでいるようには思えない。

でも。

しかし。

そんな思いを抱え、鷹の湯ののれんを久しぶりにくぐった。

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「いらっしゃい」

ご主人のお迎えの言葉はいつもと同じ。

「お願いします」

回数券を出す私のムーブもいつもと同じ。

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平日の夕方の時間帯。

いつも見る常連さんとは違う常連さんたち。

お客さんはそこそこいる。

いつもとは時間も曜日も違うけれど、鷹の湯は鷹の湯だ。そのことに胸をなでおろす。

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ちいちゃな桶を使って、熱湯を体にぶっかける。始まりの合図。

浴室に入ってすぐ右にある、お湯と水がわかれているカランへと歩を進める。椅子は新しく導入された茶色のものをチョイスする。桶はケロリン

まず頭を洗い、石鹸で全身をさっと洗う。

規則正しさは身を助ける。

ルーティーンを淡々とこなしていく。

と、違和感が走る。

なんか硬い。

鷹の湯は市内の銭湯ではあまり多くはないシャワーホースタイプのカランだ。そのホースの動きが硬い。

おふろ用のメガネをかけてよく見てみる。

「あ、新品だ」

思わず声が出る。

そうなのだ。シャワーホースとシャワーヘッドが買い換えられている。浴室内を見回すと全カランが新品になっている。

おっしゃあ!!!

心の中で鬨の声をあげる。

前のシャワーホースだって古かったがまだ使えた。鷹の湯は「まだ使えるものを買い替えた」。

これは、つまり、つまりってことだ!

魚群は去った。あっちいけ、しっしっ!いっつも当たんねえんだよ、ばーか。

百聞は一見に如かずとはまさにこのことだ。

さっきまでの不安や心配なんて、あっちい風呂に全部溶かして水風呂できゅっとしめてしまえばいい。

だって、ここは今までもこれからも鷹の湯なのだから。

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「ぬるめ」と書かれた熱湯(あつ湯)でぼへえっとしてると頭に何かが当たる。

「あれ、これって」

頭を載せやすいように壁側にオレンジのクッションが設置されている。そういえば、サウナの背中に当たる部分に熱を遮断する銀マットも貼られていた。

見落としてしまいそうなくらいささやかな変更。

「鷹の湯も時代と戦っているんだねえ」

そう思い高い天井を見上げる。

青空が見えた。

鷹の湯の四角い穴の向こうにはささやかな青空が広がっている。

これもまた鷹の湯のささやかな楽しみの1つだ。

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閉店する店舗はこれからもたくさん出てくるかもしれない。

悲しいけれど、そんな気がする。

時代の波と言ってしまえばそれまでだが、コロナのダメージは途方もない大きさまで膨れ上がろうとしている。それでも、時代にあらがおうとしている銭湯がある。

鷹の湯は鷹の湯なりのやり方であらがっている。

美春湯はTwitter美春湯 (@miharuyusapporo) | Twitter)を中心に様々なアクションを発信し、異業種の方々と積極的につながっている。

月見湯は昨今のサウナブームの波を的確にとらえ、サウナハットなどのグッズを提供している。

共栄湯は組合をぬけ、新たなステージで銭湯運営に挑んでいる。こちらも今までとは違うアプローチの取り組みを次々としかけている。

失うものへの悲しみは尽きない。けれども、悲しみに心奪われて、見えているものまで見えなくなってしまうわけにはいかない。

まずは地元を愛そう。

銭湯に行こう。

それも、地域の銭湯に行こう。

今まで見えていなかった「そこ」にも、物語があるはずだから。