札幌(とか)の銭湯を(おふろニスタが)行く

家が火事になりましてね。風呂がないんですよ。で、チャリで札幌の銭湯を巡っていたら、いつの間にかおふろニスタになっていました。中年男性がお風呂が好きだと叫ぶだけのブログです。

⑦丸駒温泉

よどんだ日々を過ごしている。

最近のブログが今までとテイストが違うので、なんとなく雰囲気は伝わっているとは思う。

とはいえ、あたりまえだがこのブログにそれほど多くの読者がいるというわけでもない。それでも、幾人かの固定読者の方がいるというのだからありがたい話だ。

その中でも明らかにトップの読み込み度合いを誇る方がいる。よもぎさんだ。

ブログの記事をすべて読み込み、大きな時計がある鶴の湯、ヤクザとすれ違った大正湯、俺の菊水湯、森のゆのサ活。私が忘れていた話もすべて覚えていらっしゃる。

「元気がないみたいですね。丸駒温泉にでも行きませんか?車で」

本当によく読み込んでいらっしゃる。

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sapporo-sento-syosinsya.hatenablog.com

3年前、私は自転車で丸駒温泉に行った。よもぎさんの車で丸駒温泉へ行く道中、あのときの記憶がよみがえってくる。

思いつきで行ったために、帰りは小さなライト1つで獣臭漂う夜道に体を震わせた。

よ「獣臭のくだりは読んでて怖かったですよ。熊は出てこないのに」

のぼらされて、くだらされて、またのぼらされる、しつこいくらいの坂道の連続。

よ「車だと坂道ってよくわからないですね。でも、自転車では絶対来たくないです」

歩道が右から左に移るトンネルの中で2匹の鹿が逢瀬をしていたこと。その間を自転車で突っ込んでいかざるを得なかったこと。

よ「それってたぶんブログに書いてなかったですよね。ブログの裏話だ」

丸駒温泉まであと3kmの青看板を見て、「やっとついた」という思いと「まだ3kmもあるのかよ」といういらだち。

その3kmの道中で私に突っ込んでくる1匹の鹿。そして、思わず叫んだ

バカ野郎鹿ッ!!この野郎鹿ッ!!

という一生に1回使うか使わないかというセリフ。

昔の自分が元気だったこと、車だとあまりに到着が速いこと、春に鹿はそんなに出てこないこと。いろいろな思いや事実がこみ上げてくる。

よ「15時前でよかったですね。車だとフロントの人おまけしてくれないだろうから」

車をこれでもかと斜めに停めたよもぎさんがさらりとブログの引用をする。その器用さと不器用さのコントラストがおもしろい。

お昼の丸駒温泉。

水風呂を新しく作ったという丸駒温泉。

天頂近くで雲に隠れる太陽を撮ると、今年度に入って初めて感情が湧きたっている自分を感じた。

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丸駒温泉の大浴場はフロントを左に曲がって階段をくだったりのぼったり。札幌からの道中を思わせる。

『ここからはきものをおぬぎください』

という意味合いの看板に行き当たりスリッパへと履き替える。

いよいよだ。

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浴場に入ると圧巻の景色が目に飛び込んでくる。

大きなガラスの向こうに圧倒的に広がっている北限の不凍湖・支笏湖

北海道だ。

札幌から1時間半、裸でこれほどまでの北海道を全身で味わえる場所。なんて貴重なんだろう。

備え付けの馬油のシャンプー・トリートメント・ボディソープで体を清め、いざウッドデッキの露天風呂へ。

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全身に支笏湖からの春の風を浴びる。どこか出汁感のある飲める温泉を一口飲んで、全裸で伸びをする。

それを見下ろしているのは風不死岳だ。変な名前の熊だらけの山。

露天風呂は適温だ。ゆっくりと体をあたため、新設された露天水風呂に耐えられる体を作る。

ウッドデッキの右側。

明らかに冷たい。

目の前の湖から吹き付ける風が冷たいんだから、そこに作られた水風呂がぬるいわけがない。

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ぴゃ

たぶん声は出していない。心の中だけで叫んだはずだ。

とっぷり冷たい。

こっくり冷たい。

しゃっきりくっきりはっきりと冷たい。

頭の中でこの水風呂を中心とした組み立てが決まった。

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下段は2人、上段は身を寄せ合えば4人。それしかない小さなサウナ室。

下段は過ごしやすい温度ではあるが、上段に移ると表情が変わる。

しっかりと熱い。

熱さとともに甘い木の香りが鼻をくすぐる。

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ぴゃ

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さっきよりはもうちょっと長い時間サウナ室に入っていられるだろうか。

体調を崩してから、どうにもサウナに(熱い湯にも)入っている時間が短くなってしまっている。

休憩なしの連続。体はあの水風呂で冷え切っている。

さっきよりもうちょっと先へ。

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ぴゃーーー

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ここから少しの散歩が始まる。

とことこと浴室を出て、丸駒の奥。岩露天風呂へと進む。

しかし、岩露天風呂が目的ではない。岩露天で支笏湖と一体化する外気浴が目的だ。

奥の奥へとずんずん進む。

くだって、のぼって。

扉を開き。

最奥。

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どわあ

目の前に何かしら日本2位になりがちの最北の不凍湖・支笏湖が広がる。

しかし、もちろん写真は撮れない。

ここにそこからの光景をお伝えできないことがもどかしい。

分かち合うことの美しさと、分かち合うことの難しさはあなた自身でたしかめてほしい。

そこからの景色は

どわあ

だ。

だから、もしあなたが丸駒温泉の最奥に行く機会があれば、安心してほしい。そこには写真にはうつらない美しさがあるから。

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ウッドデッキの露天風呂が『洋』だとしたら、岩露天は『アイヌ』。

先住民の息吹を感じる。だが、『ゴールデンカムイ』を最近読み切った影響は否めない。調べてもよくわからないからそういうことにしておこう。

ベンチに腰を据え、三角座りで風不死岳へうすぼんやりと目を向ける。

肌をなでる風が少し冷たい。雲が山を襲う。波の音が聞こえる。

目をあけるのがめんどくさくなり、頭を膝の間にはさみ目をつぶる。

鳥がどこかで鳴いている。波の音。背中を上から下へ風が過ぎる。波の音。繰り返される風と波と鳥の声のリズム。太陽の光はここまで届かない。

今。

昔。

未来。

何かが私の中に溶け込んでいく。けれど、それが私にはわからない。

波の音。

風。

鳥。

見下ろす風不死岳。

心身を包み込む支笏湖

来てよかった。

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体と心はほんとうにままならない。

MPを回復するにはHPを使う必要がある場合が往々にあるのに、HPそもそもが足りないからただ眠るしかない。

飯も食えない。

風呂にも入れない。

散髪もできない。

その状態はようやく抜け出した。

主治医は言う。

「まだ1か月も経ってないでどうにもならないって。あわてないでゆっくりいこうよ」

たしかに最初に「最低3か月」と提示されている。

とても長い。札幌には初夏の気配が漂い始めてきたくらいだ。

だからこそ

なんの意味かはわからない。けれど、そううそぶいていたい。

だからこそ

こう思えるようにはなってきている。