札幌(とか)の銭湯を(おふろニスタが)行く

家が火事になりましてね。風呂がないんですよ。で、チャリで札幌の銭湯を巡っていたら、いつの間にかおふろニスタになっていました。中年男性がお風呂が好きだと叫ぶだけのブログです。

せん湯とごはんvol.8)岩見沢市毛陽町『ログホテル ザ・メープルロッジ』と岩見沢市5条東『かまだ屋6条店』

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「やはり狂人であったか」

フレイムタイラントから多くの無謀な挑戦者たちに送られた言葉だ。

ゲームの中だけの話ではない。現実の世界にも多くの狂人は潜んでいる。

知人は手稲山ヒルクライムを1日5往復敢行した。 8km強の登りと8km強の下り。それを5回。しかも、『折り畳み自転車』で。

狂気の沙汰だ。

「自分を鍛えようと思ってさ。いやだいやだって逃げてたんだけど、やるって言ったからにはやらなきゃねー」

信じられない信念。強靭なまでの意志。

私の中のフレイムタイラントが尊敬の念を込めてつぶやく。

「やはり狂人であったか」、と。

そして、狂人がもう1人。

名をかいろ (@kaairou)さんと言う。

彼は酔狂なコレクターでスタンプラリーと名の付くものを片っ端から制覇している。

北海道道の駅スタンプラリー・北海道温泉スタンプラリー・マンホールカード・札幌銭湯スタンプラリー……

そのコレクトスピードがすさまじい。

たとえば、道の駅スタンプラリーを集めるためのある2日間の足取りを見てみよう。(※かいろさんのTwitter参照)

札幌→小平→苫前→羽幌→初山別→遠別→中川→天塩→稚内→猿払→浜頓別→枝幸→岡島→中頓別→音威子府→美深→名寄→幌加内→剣淵

意味がわからない。

これがたった2日間の行程なのだ。

総走行距離919kmッ!!

東京から札幌まで830km。

東京から福岡まで890km。

(北海道内だけとはいえ)旅を本職としない一般成人男性が土日だけで運転する距離としては常軌を逸していることがおわかりいただけただろうか。さらにいうならば、その翌日に通常勤務をこなしているというのだから、言葉を失う。

『狂人』だ。

そんな狂人から1通のDMが届いた。

「おふろ二スタさん、一緒にメープルロッジに行きませんか?」

ーーーーーー

札幌をはじめ旭川などで局所的なブームを起こした『パインアメの湯』。『白石区東札幌 共栄湯 』がその始祖である。その静かなうねりの始まりの瞬間に、私はかいろさんと居合わせた。

そのときだ。

「ぼく、水風呂に入れないんですよね」

衝撃的なかいろさんの発言に私は動揺した。銭湯を、お風呂を、存分に味わうには、それはまずい。それだけはいけない。

水風呂に入『ら』ないという選択は体調によってはもちろんありだ。だが、水風呂に入『れ』ないでは選択の余地がないではないか。

私の使命感は燃え上がった。

「だったら、サウナと水風呂と休憩のセットを無理なく一緒にやってみましょうか」

「はぁ、せっかくだから、はい」

まずはサウナね。

我慢しちゃだめね。

修行じゃないんだから。

うん、熱くなったらでちゃおう。

で、待って待って、汗を流すのはあったかいお湯のほうがいいよ。

どうせ、冷たい水につかるのに、その前につらいことしなくていいよ。

水風呂にざばーね。

我慢しちゃだめよ。

うん、すぐに出ていいから。

水風呂は分割払いだから。

3回払いするんだから、最初から無理することないのよ。

ね、サウナさっきより長く入れるでしょ。

そうそう、でも、修行じゃないからね。

うん、無理はしない。

ほら、水風呂、首までは入れてるじゃない。

でも、無理はなしね。

で、次が最後ね。

ねー。

入れちゃうようになるでしょ。

ここまでくると入れちゃうのよ。

修行してないのに、長くなっちゃうのよ。

水風呂にそんなに長く入っていると体が冷え切っちゃうよ。

んで、体をふいて、脱衣所の扇風機をこっちにむけて、休むのよ。

ほへーでしょ。

ふわぁでしょ。

そして、超ぬる湯につかるのよー。

パインアメよー。

甘いよねー。

きもちぃよねぇ。

そんでさ、これ、俺が借りてる『オージュア』っていう高級シャンプーとトリートメントなんだけど、使ってみる?

あとでお金払えば大丈夫じゃね?

まって。

まってってば。

こら!こらー!

あんた、そんな短髪でオージュア3プッシュすんじゃないよ!

ばか!ばかー!

そんな懇切丁寧なやりとりを経て、かいろさんは開眼した。その後、彼はサウナ・スパ健康アドバイザーとなった。

この行動力もまた、かいろさんだ。

ーーーーーー

豊平区豊平 鷹の湯の前に迎えの車が止まる。上げ膳据え膳とはこのことだ。送り迎え付きのお風呂旅行の始まりだ。

個人的に言えば、メープルロッジは2回目。前回は自転車だった。思い出すと心が苦しくなる。岩見沢市内についたのに目的地には一向にたどり着かず、いつまでペダルを踏み続ければいいのか迷い、苦しみ、途中で羊羹をバカスカ食べて、着いたときにはヘロヘロになっていた場所。片道4時間以上の緩やかな地獄。

だが、車は速い。

「ペダルをちょこっと踏めばいいだけですからね」

皮肉めいたセリフにも読者感を出してくるところがまた憎い。狂人と奇人の旅は穏やかに始まった。

ーーーーーー

「お二人合わせて、400円になります」

!?

かいろさんの持つ不思議チケットにより、たった200円で北海道有数のフィンランドサウナに入れてしまった。

道の駅で手に入れたとかいろさんは言っていたが、私はなにかしらのよくない組織や勢力が関係していたり、していなかったりするのではないかとにらんでいる。何せこの日も新冠→札幌→岩見沢という強行軍を平然とこなしているのだ。私の想像の範疇を超えている。

とはいえ、やはりセルフロウリュの前ではそのような懸念など風前の灯火だ。素っ裸になった我々はうきゃうきゃしていた。

ーーーーーー

メープルロッジ。

フィンランドサウナを求めてここまで来た(連れてきてもらった)が、泉質も抜群だ。

室内風呂(檜)→露天水風呂→ふへー

室内風呂(岩)→露天水風呂→ほふぁ

露天風呂→露天水風呂→むほほぅ

繰り返される温冷交代浴により、狂人と奇人の肌はぬめぬめし始め、我々はあっという間に美しい狂人と美しい奇人になっていた。

さぁ、主役のサウナと参ろうか。

しかし、コロナ禍ゆえ、サウナ室に入れる人数は限られており、狂奇の桜はここから別行動となった。

ーーーーーー

地元の方々やサウナ好きで室内はつねに満員だ。

少しぬるい室内には、どでかいサウナストーンが鎮座し、やけに長い砂時計が本格派の雰囲気を醸し出している。

そして、セルフロウリュ用の水と木の柄杓。

ここまで来たからにはやらずに帰るわけにはいかない。いつやってやろう、いつやってやろう、とタイミングを計っていると、常連さんがサウナストーンの周りのレンガに桶で持ち込んだ温泉をじゃっばじゃっばとかけていく。そして、最後にサウナストーンにジャーっと仕上げの一発だ。

湿度は上がり、ロウリュが必要な感じがしない。

このルーティーンのはざまを縫ってセルフロウリュをできるだろうか。

でも、やってやる。

やってやってやりまくるんだ!

ーーーーーー

タイミングを計りすぎて、サウナ室と露天水風呂の往復を何度したことだろう。

ちんちんの水風呂はサウナで開ききった全身を一気に収縮させ、敏感に張り詰めた肌を秋の北海道の外気がなでる。

最高だ。

でも、私の心は夏模様。

ロウリュやりたいんだもん。

だって、

ロウリュやりたいんだもん!

ーーーーーー

今日は私1人ではない。いつの間にかいなくなったかいろさんを気にしながら、「これが最後の1回」と心に決め、サウナ室へと向かう。

驚いた。

あれだけ混みあっていたサウナ室に私1人ではないか。

ロウリュし放題ッ!!!

うえいよー

じゃばー(じゅー)

じゃばー(じゅー)

じゃばー(じゅー)

ひゃー、あっちー!!

……って、あれ?

これって?

タオル振り回し放題じゃね?

きょろきょろ

……

…………回したい

………………振り回したい

たい

たい

たいたいたい!

あいわな

JOY!と

JOY!と

JOY!と

HAPPYなピーポー!!!!

ーーーーーー

大満足だ。もう思い残すことはない。

でも、おなかへった。

でも、おなかへったーーーー!

助手席で私はぐずった。

「どこか行きましょうか?」

気の利く青年だ。狂人なんて言ってごめんなさい。かいろさんのお言葉に甘え、私はスマホにかじりついた。

岩見沢

在りし日を思い出し、いくつかのお店を検索していく。

「……ビールのんでいい?」

「もちろんいいですよ。ぼくは飲みませんけど」

「運転してるもん、あたりまえだよねー。あっはっはっはっは!(残酷)」

じゃあ、岩見沢市民が愛する焼き鳥屋『三船』はどうだろう。とりもつ串はもちろん、鶏の濃厚だし薫るおそばが絶品だ。

セルフアウフグースによりとがり切った私の五感はあますところなく『三船』を味わうだろう。もつ焼きをはぐはぐ食った後にビールをくはぁっとね。恨めしそうにこっちを見る人をしり目にビールをくはぁっとね。

きひひひひひ 

「あっ、休みだ」

こういうところだ。こういうのが私の悪いところだ。どうしよう。やはり日ごろの行いの悪さはこういうところにでてしまう。どうしよう。どこにすればいいんだろう。

~~回想~~

若俺「岩見沢でこれ食っとけってものありますか?」

地元民「んー、ない」

若俺「いやいや、ラーメンとかでもいいんで」

地元民「じゃあ、『かまだ屋』だね」

若俺「何がおいしいんです?」

地元民「立ち食いそばみたいな感じ」

若俺「え?」

地元民「でも、なんかうまいのよね」

若俺「はぁ」

地元民「岩見沢市民はみんな行ってると思う」

若俺「立ち食いそばを?」

地元民「立ち食いじゃないよ。おいしいよ」

若俺「(んー、そういうんじゃないんだよなぁ)」

~~回想終わり~~

「……かいろさん、食べるのなんでもいい?」

「なんでもいいですよ」

「『かまだ屋』っていう、岩見沢市民の愛する立ち食いそばっぽいところがあるらしいんだけど」

「好きですよ、立ち食い」

「いや、立ち食いじゃないっぽいんだけど」

「じゃ、そこ行きましょう」

ーーーーーー

「いらっしゃいませー」

おばちゃん2人がせっせと働いている。カウンターだけの店内。券売機とセルフの水とゆでおきのそば・うどん。ここで正解なのだろうか。せっかく連れてきてもらったのだから、そのお礼においしいお店にナビゲーションするのが私の仕事のはずだ。果たしてこれであっているのだろうか。

「あ、安いですね」

「ここは俺が出すよ」

「すいません、ごちそうさまです」

安いものをおごって言われるお礼ほど気恥ずかしいものはない。だが、ここは出さねばならない気がする。

大丈夫かな。

大丈夫かな。

「はい、おまちどうさま」

大丈夫かな。

大丈夫かな。

ずるっ

うまっ

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なにこれ。

なんかうまっ。

あまっ。

だしあまっ!

なにこれ、なんかわからんけど、うま!

うまっ!

なにこれー!

うままっ!!

うまぁあああああ!

ずるずるずるずるずるずるぶひぶひぶひぶひぶひぶひずるずるずるずるずるずるぶひぶひぶひぶひぶひぶひずるぶひずるぶひずるぶひずるぶひぶひ

ぶはぁ

「ここ、家の近くにほしいですね」

かいろさん。

俺もそう思う。

ーーーーーー

メープルロッジに岩見沢市民の愛する地元飯。

大満足の旅だ。

「寝てもいいですからね」

さらに運転までしてもらっての帰り道。

なんと贅沢な旅だ。

……

…………

………………

………………でも、飲みたいよね。

「え?なんか言いました?」

「びーる……」

「はい?」

「びーるのみたい」

「はい」

「びーるのみたい!」

「……ですね」

「行こう」

「行きましょう」

こうして、札幌についた男2人は夜のとばりに消えていくことになる。僕たちの旅はまだまだ始まったばかりだ!