大きなうねりの始まりは「共栄湯」だった。
『パインアメの湯』という大人の子ども心をくすぐる薬湯が実施されると、札幌の銭湯愛好家たちはにわかに色めきだった。
「女房を質に入れてでも行かにゃッ!!」
「仕事なんてやってられるかッ!!」
「甘い匂いに誘われるのはカブトムシだけじゃねえぞッ!」
それぞれの思いを抱え、共栄湯の超ぬるパインアメの湯へとたどり着き、そして、おのおのが芳醇な駄菓子の湯の中で溶けた。
そのうわさは道内をかけ回り、Twitterを通じ、旭川へと伝わった。そして、パインアメの湯は旭川健康ランド、旭川高砂台 万葉の湯で実施されるにまで発展した。
旭川でもパインアメの湯は大人の子ども心をくすぐり、身も心もとろかせたと聞く。
道内に巻き起こるパインアメ旋風はとどまることを知らない。
8/8(土)5店舗合同実施ッ!!
かつてこのような催しが行われたことはあったのだろうか。
共栄湯から始まった流れは、旭川を経て、共栄湯、大豊湯、美春湯の白石区銭湯四天王、鷹の湯、東豊湯という豊平区豊平の2店舗にまで還元されることになった。
『パインアメの湯』
その甘い香りが、札幌市内同時5か所に解き放たれる。
私はどうすればいいのだろう。
共栄湯で、超ぬるパインアメの湯でもう1度とろければいいのだろうか。だったら、100円で借りられる高級レンタルシャンプー&トリートメントは早い者勝ちになるだろう。
大豊湯なら、もしかしたらパインアメうたせ湯なんてことが起こってしまうのだろうか。レンガ造りのテレビのないストロングスタイルのサウナと水風呂で温冷交代浴がすすむはずだ。
美春湯のバンダイスタイルで手入れの行き届いた昔ながらの銭湯を感じ、目の前にケロリン桶のピラミッドを見ればいいのだろうか。脱衣所のきっちり貼られたポスターを無料で使えるドライヤーを使いながら愛でるのも乙だろう。
それとも、東豊湯でおっちゃんこ座りのできる浴槽でぐだーっとパインアメの湯につかり、隣の「飲める水風呂」にちゃぷちゃぷ手を突っ込んで、きゃっきゃっ、うふふすればいいのだろうか。
いや、やはり鷹の湯で、パインアメの湯の甘さを求めてゆるんでしまった頭のねじが吹き飛ぶほど熱い湯船につかり、「人生は甘いだけじゃあないんだな」と痛感するのがいいのだろうか。
選べない。
私には選べない。
でも、あなたは選べる。
いや、むしろ選ぶべきだ。
あなたが久しく銭湯に足が向いていなかったのなら幸いだ。
久しぶりに訪れる銭湯は、こんなにも、こんなつらい状況においてでも、私たちに楽しみを用意してくれる場所だと知ることができる。
もしあなたに子どもがいるのなら幸いだ。
大人の子ども心ですら、これだけ魅了するパインアメの湯ちゃんは、子どもの子ども心にはさらにダイレクトに響くだろう。それは一生の思い出になるはずだ。しかも、8/8(土)は小学生以下の子どもは保護者1名につき2名まで無料なのだ。
8月8日(土)、パインアメの湯に行きたい。
そんな気持ちになってくれたらうれしい。
で。
で、ですね。
実は『岩下の新生姜の香り湯』っていうのがありましてね。
え?いや、別に。
ええ、いや。なんでもないです。
ははは、いやだなぁ。