札幌(とか)の銭湯を(おふろニスタが)行く

家が火事になりましてね。風呂がないんですよ。で、チャリで札幌の銭湯を巡っていたら、いつの間にかおふろニスタになっていました。中年男性がお風呂が好きだと叫ぶだけのブログです。

札幌家族風呂たんぼう②)白石区美春湯の場合

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正論が嫌いだ。

正論はあまりに正しすぎる。正しすぎるものは、排他的すぎる。そして、私はこれまでの人生で排除されすぎてしまった。

「我々は何ものも拒まない。だから、我々から何も奪うな」

少年漫画に出てくる頭のいかれたテロリストのセリフが身にしみる。

今は何もしないことが正しい。そんな世の中がやってくるとは思わなかった。何もしないということが、なかなかに辛抱の必要なことだとも知らなかった。

今、銭湯は最低限必要な人が使うべきなのだ。

つまり、家に風呂がない人間だ。

私の家には風呂がない。だから、私は銭湯に行くことができる。これは国や、法律にも保障された行動なのだ。

という圧倒的な正論を主張することで、私は誰かを傷つけてしまいやしないか。

自分の正当性を主張するあまり、繊細な『精神の衛生』(思いや考え)を踏みにじることになりはしないだろうか。

もしくは、そんな私の姿勢が、お世話になる銭湯に何かしらの迷惑はかけやしないか。

銭湯が必要な理由は「家風呂がない」のほかにもある。公衆『衛生』の中には、身体的・精神的な『衛生』がある。だが、日常的に銭湯を利用していない人にはこの主張が伝わらない。

銭湯は、そのすべて含めた『公衆衛生』を守るために必死だ。そして、多くの人たちと同様に銭湯クラスタも精神の『衛生』を保つのに必死なのだ。

そんなセンシティブな時期にブログを更新してよいのか。

答えは風の中だ。

友よ、答えは風に吹かれている。

友よ、世間に風邪が流行っている。

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おそるおそるではあるのだが、この店舗なら、書くことを許してもらえるかもしれない。

それが、白石区の女性的な心遣いがいきわたる銭湯『美春湯』だ。Twitter(@miharuyusapporo)での情報発信などを積極的に行っており、現在の「公衆衛生を守る」という銭湯の意義に誇りをもって(とはいえ、悩みながらではあると思うが)営業している姿勢が伝わる。

緊急事態宣言の直前。

私はそんな美春湯の家族風呂にお世話になった。

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春が来たとは言え、札幌にはまだ寒風が吹いていた。どんな状況が訪れようと、新しい銭湯への訪問には心が浮き足立つ。

美春湯に着いたのは、開店時間40分前だった。自分の舞い上がりっぷりが少し恥ずかしい。

近くの公園でしばし時間をつぶす。遊んでいる子どもやお母さん、お父さんは、マスクをつけたり、つけていなかったりしている。まだ札幌市民の心に余裕があった頃だ。そんな人々の姿を中年男性がマスクの下でニヤニヤと見つめていた。

マスクがあってよかった。

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入口の暖簾をくぐると、薄暗い急な階段が待ち構えていた。

なんともオールドファッションなたたずまいだ。

『家族風呂』

個室を借り切って、性別の隔たりを超えて家族でお風呂を楽しめる時代遅れがゆえに、時代が追いついてきたシステム。

この階段から、その紆余曲折の歴史を感じずにはいられない。

階段をのぼりきり、扉を開ける。

色とりどり、たくさんの種類が並んでいるシャンプーバー。

ちっこいアーケードゲーム上海。

待っているのは明るく、美しいロビーだ。

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おだやかな女性が受付をしてくれる。

柔らかな口調。

穏やかな声。

美春湯の銭湯もそうなのだが、家族風呂にも、やさしさがあふれている。それが、この時点でわかる。

100円の割引券をいただき、いざ個室へ行こう。

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きれいだ。

くもり1つないガラスの向こう側に富士山が見える。

その上の窓から光が差し込む。

タイル張りの浴槽にはバイブラがぶくぶくと湧いている。

待てない。

なんで俺は服を着ているんだ。

いらない。

もう。

服なんて。

いらない!

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ホースシャワーはやはり便利だ。しかし、桶から浴槽のお湯をジャッバンジャッバンかけるスタイルがいい。

それも周りにバッシャンバッシャン飛び散るくらいに豪快に。

「どっせい!どっせい!」

あたたかいお湯をこれでもか、これでもか、と浴びまくる。これは家でも、銭湯でもできない贅沢だ。

ほへー

湯船につかると、やはり銭湯だ。家風呂とは違った感覚がある。

なんでだろう?バイブラかな。富士山かな。それとも備え付けのタイルの浴槽かな。

頭をひねっていると2つの蛇口が目にとまる。

「熱湯」と「冷水」の蛇口だ。

この瞬間、私のおめめはキラキラに輝く。

「自分好みの熱湯(あつ湯)が作れるじゃん!!」

手稲区・藤の湯、北区・福の湯、豊平区・鷹の湯、東区・美香保湯、西区・笑福の湯。札幌市内には頭のねじが何本か吹き飛んでいる熱湯(ねっとう)をもつ銭湯がある。

最初は「バカじゃねえの!誰が入るんだよ!」と文句を言いたかったのだが、銭湯を巡っていると、やがて気がつく。

熱い湯と水風呂の繰り返しが1番跳べる、と。

そして、それが理解できたということは、すでに体は熱い湯がないと満足できないように調教されてしまっている。後の祭りだ。

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どれどれ、熱くしましょうか。うきゃうきゃした気持ちで熱湯の蛇口をひねる。

どばばばばばばばば

ほっほう、ほう!

よいぞよいぞ。

どばばばばばばばば

はん。

はん、ははん。

どばばばばばばばば

うえっへっへっへ

うえっへっへっへっへっへっへっへっへ

よっしゃ、水浴びるぜ!!!!

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冷水、桶に汲んでじゃばー

冷水、桶に汲んでじゃばー

冷水。桶に汲んでじゃばー

ひゃっはー!こいつは春から縁起がいいぜッ!

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たった1人の脱衣所で扇風機の前を陣取る。

タオル?

いらないよ。だって、1人だもん。まる出しだよ。ささやかな俺の俺はまる出しだよ。

いいじゃんさ。

誰も見てナインダモン。

ミテイルノハオレダケダモン

ケダモン

ポケモン

オレノオレハポケモン

イッツアポケットモンスタァァァァー

うん、久しぶりだね。

ニルヴァーナだね。

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さて、もう1度味わうとしましょうか。ぐへへへへ。

あっちーーーーって

やりすぎている。

これは頭のねじが吹き飛んでいる熱さだ。

入れない。

蛙は自分の入っている水の温度がじょじょに上がっていっても気がつけないらしい。だから、やがて茹で上がって死んでしまうという。

俺じゃん。

今、俺、同じことしてんじゃん。

え?ってことは、俺、蛙だったってこと???

マジかー。

お風呂を冷水でうるかし(別の言葉を知らない)、おそらく常識の範囲におさまる湯温に戻したところで1時間経過、タイムアップである。

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「写真を撮ってもいいですか?」

受付の女性に許可を求めると

「いいですよ。私は清掃に入りますので、ご用があれば、およびくださいね」

と朗らかに答えてくれた。

舞い上がって、たくさんの写真を撮った。それはそれはばっしゃばっしゃ撮った。

だが、あえてその写真は載せずにしておく。ぜひ、美春湯家族風呂のロビーにある小さな筐体の上海を自分の目で確かめてほしい。

そして、自分が行った銭湯の話をおおっぴらにすることができるときが、早く来てほしいと願っている。

そのときが来たら、銭湯(スーパー銭湯)の中の人や、銭湯ニスタ、サウナ―と、各々が撮影した美春湯の『上海』を肴に飲み明かそうじゃないか。

友よ、答えは風の中だ。

次回、未定