札幌(とか)の銭湯を(おふろニスタが)行く

家が火事になりましてね。風呂がないんですよ。で、チャリで札幌の銭湯を巡っていたら、いつの間にかおふろニスタになっていました。中年男性がお風呂が好きだと叫ぶだけのブログです。

11,白石区南郷通7丁目 美春湯

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女性らしさ、男性らしさという概念がある。

個人的には、女性は女性らしくあるべきという考え方はあまり好きではないし、その逆もあまり好きではない。女性らしい男性がいてもいいし、男性らしい女性でも、女性とも男性ともつかないらしさもあっていい。

いきなりややこしいことを書いているが、今からLGBTQの話をしたいわけではない。

ただ、「らしさ」に縛られるのが好きではないと書きつつ、私にはふとしたときに「女性らしさ」「男性らしさ」を感じる瞬間がある。

ふとした場所で「ああ、女性らしい気の使い方だなぁ」とか「ああ、男らしい雄々しさがあらわているな」とか。

あくまで個人的で、漠然とした印象だが、ままあるのだ。

その主観的感覚がいまだかつてないほど炸裂した場所。それが、どこどこまでもおかみさんの神経が行き届いている銭湯、美春湯だ。

美春湯には、私ではどうあがいても到達できそうにない、心地よい「女性らしさ」があった。センシティブな枕になってしまって恐縮だが、私にはこれ以上の表現が思いつけない。

美春湯は女性らしい。

このようなデリケートな表現を使ってでも、私は伝えたい。

美春湯は札幌市にある、とっても素敵な銭湯の1つだということを。

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「いい店にはいい客が集まる」と聞いた。店の雰囲気は、店の主、店員、内装、外装、そして、そこを利用する客が作り上げられる。

それは銭湯でも同じだ。

ある銭湯では、穏やかに、ある銭湯では友好的に、ある銭湯では求道的に、常連客が過ごしている。そうやって、その銭湯独特の空気を作り出す。

美春湯は、客が自主的に動き、清廉さを保ち続ける銭湯だ。

きれいなトイレはきれいに保とうという意識が働くし、落書きだらけのトイレはちょっとくらい汚しても構わないと思ってしまう。

かの湯は、細部の細部までが整然としているため、客もその秩序維持に自ずと貢献したくなるのかもしれない。

銭湯内にただよう清廉さは細部を見ても伝わってくる。

たとえば、美春湯に掲示されているポスターは1つも貼りっぱなしにしているものがなく、寸分のずれもない。

ピラミッド状に置かれている桶とイスは、いつまでもピラミッドのまま整然としている。

熱めのサウナの窓際には7色の砂時計が実用と彩りを兼ねている。

一見客にもこれだけの気配りが伝わるのは努力のたまものだ。

また、美春湯はきれいなだけではない。おもいやりもいたるところにちりばめられているのだ。

深めの湯舟に移動式のイスが沈めてあり、どの位置でも適度な高さでお湯を楽しむことができる。

サウナのタオルをかなりこまめに交換している。(常連客の方も自主的に濡れたタオルを使ってサウナを拭いていた)

ドライヤーを無料で使うことができる。(多くの銭湯では20円かかる)

これが、昔ながらの富士山の絵が描かれた番台スタイルの銭湯のだというのだから驚いてしまう。

時代に翻弄されず、変わらないことを選んだ銭湯がある。時代を受け入れ、変化を続ける銭湯もある。そして、残すものと変えるものを可能な限り両立させようとする銭湯もある。

どの銭湯にも、よさがある。

美春湯は、おそらく両立を目指している。押しつけがましさをまったく感じさせないような心づかいで、客の満足度を高めようと日々サービス向上に努めている銭湯なのだ。

それがわかるから、常連客の方も率先して業務を手伝っているのかもしれない。

キンキンに冷えたバイブラってない水風呂に入りながら、そんなことを考え、なんだか笑顔になってしまった。

なってしまった

なってしまっている

ナッテシマッテイル

シマッテイルーーーー

テイターーーーー

キマッテシマッテイターーーーーー

イツノマニカーーーー

イマモキマッテシマッテイルーーーーーー

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充実したニルヴァーナのあと、心づかいのありがたさ、美春湯に流れるあたたかさに大満足である。

私が着替えをしている最中も、おかみさんはサウナのタオル交換や浴内の清掃のために番台とひっきりなしに行き来し忙しそうだ。

「ありがとうございました。とってもよかったです」と声をかける私におかみさんは言った。

「あれ、ペットボトルが空じゃない?うちの水汲んでかない?うちは地下水だから、とってもおいしいよ」

ち……地下水!!

やはり、地下水の銭湯は大照湯だけではないようだ。あのキンキンの水風呂は地下水の証明だったのか?

「でも、服を着てはさすがに入れませんよ」

「じゃあ、私が汲んできてあげる」

『なんてことないわよ!』という雰囲気で、私のペットボトルを持ち、浴内の水を入れに行ってくれるおかみさん。至れり尽くせりとはこのことかもしれない。

体だけでなく、心までほかほかの帰り道だった。

虹の橋で自転車を止めて、汲んでもらった水を飲む。あたたかな心づかいの込められた冷たい地下水は、いつもの水よりもおいしかった。気が……するけど……本当は……よくわかんない……水の味の違い……

なんにせよ、さいこー。美春湯さいこー。

いつか機会があれば、美春湯の2階にあるっていう家族風呂にも入ってみたいものだ。

いつの日か。できるものならば……

次回、北区北27条『北都湯』