札幌(とか)の銭湯を(おふろニスタが)行く

家が火事になりましてね。風呂がないんですよ。で、チャリで札幌の銭湯を巡っていたら、いつの間にかおふろニスタになっていました。中年男性がお風呂が好きだと叫ぶだけのブログです。

10,豊平区西岡 大照湯

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この歳になるとなかなか気軽に『遊ぶ』というわけにはいかない。子どもは大きくなるし、奥さんは育児に、本人は仕事に忙しい年代だ。

だが、私は子どももいないし、奥さんもいないし、仕事は自営業だし、家もないから友人たちとはちょっと状況が違う。

……泣いていないよ。

それぞれの状況があるとはいえ、時々会って交わす酒は、毎日会えていた学生のころに比べると貴重な時間であることは間違いない。学校がない大人は、友だちとは簡単には会えないのだ。

それなのに、せっかく久しぶりに高校の友人と飲んだ場で、私は銭湯の啓蒙に多くの時間を費やしてしまった。ニルヴァーナの鮮烈さ、札幌にある貴重な現役の文化史。ああ、酔いに任せて、なんて時間の使い方をしてしまったのか。

しかし、とてもやさしい友人は、私の話題にのってくれた。その上、彼は最近あった自分の銭湯体験まで語ってくれた。

「いや、子どもを新しくできたスーパー銭湯に連れてったんだけど、しまってて、かわりに近くの銭湯に行ったの。びっくりしたよー。銭湯って、あんなにお湯が熱いの?」

むむむ。これは難題である。

確かに未就学児にも伝わる楽しさを、スーパーではない銭湯で見つけるのは難しい。湯の熱さ、湯船の深さは銭湯それぞれであるが、その銭湯ごとに持つ尖った特長はおおむね万人向け、幼児向けではない。

大人の中年男性がそれぞれ違う人生を歩むように、札幌市内の銭湯にだって、今にいたるまでにそれぞれ、さまざまな道のりがあったはずだ。

鷹の湯のように熱い湯に辿り着いたところもある。

川沿湯のようにぬるい湯に辿り着いたところもある。

風呂~楽のように深い湯船に辿り着いたところもある。

友人の行った銭湯はどんな歴史を積み重ね、熱い湯になったのだろう。行ったこともない私は、「わからない」としか答えられない。せっかく話にのってくれた友人を申し訳ない気持ちにさせてしまった。初心者が調子をこくとこうなる。慎みがどうしても身につかないのだ。

友人の語る熱い銭湯、「大照湯」

そこの良さを見つけてみたい。銭湯スタンプラリーを始めて、初めての宿題ができた。

大照湯とはどんな銭湯なのか。どこよりも優先して解き明かさざるを得まい。友人と友人の息子のために。

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大照湯の駐車場は店舗と道一本離れている。私の愛車を駐輪するスペースも必然そちらになる。

きちんと赤い擬態チャリを止めて、いざ出陣!

道路を横切り、大照湯に勢い勇んで足を踏み込もうとしたとき、何かが私の目の端に入ってきた。何か重要なことが書いてなかったか?と思ったときにはすでに入口をまたいでいた。

戻るか進むか迷っていると、お姉さんから「いらっしゃいませ」と声をかけられた。

おかみさんではない。お姉さんである。

まるで中学生男子のように私はどぎまぎしてしまった。妙齢の女性に話しかけられるのに慣れていないのだ。それに、ここは銭湯だ。

銭湯のおかみさんは森光子である。森光子は昔からおばあちゃんだった。ゆえに銭湯のおかみさんはおばあちゃんである。Q.E.D

完璧な三段論法のはずだった。

突然の想定外にどぎまぎしつつ、たったそれだけのことに浮かれてしまう自分が情けない。

そんなことで胸をかき乱されたためか、お金を支払うときには目の端に入った何かなんてすっかり頭から飛んでいた。

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湯屋の華咲く浴場に入ると主浴に、驚くべきお湯の温度が提示されている。

実に「44℃

友人の言っていたことは本当だった。子どもが入っていい温度ではない。これではぬるめの熱湯風呂ではないか。とはいえ、宿題を抱えた私が入らないわけにもいくまい。

「俺の中の竜ちゃん、がんばってくれ!」と自らを鼓舞しながら入湯する。

おや?

おやおや?

確かにぬるくはない。しかし、入れないほどの熱さではない。あれ、このほどよい熱さってもしかして……

1つの仮説が浮かぶ。

『サウナ前の前菜として、熱めの湯極上』説

思いついたら、ニルヴァーナへの道のりを待っていられない。さっそくサウナに行って実証である。

大照湯のサウナは2段になっていた。迷わず熱が立ちこもる高いほうに座る。

ほらほら、すっげー出る。いつもより汗出っちゃってる。これ、熱い風呂の温熱効果だよ。絶対そうだ。

やだ、こんなに出ても大丈夫なの?水風呂大丈夫?水風呂冷えてる?ハードル上っちゃってるよ。ぬるいとたぶん飛べないよ。ここまでの流れ完璧よ?どうなの?どうなの?

ハ--------

キンキンに冷えてやがるーーーーーー

バイブラっていない、安心のキンキン水風呂である。よしよし、2回目3回目のニルヴァーナはさらに遠くまで飛べるだろう。どんどん期待がふくらんでくる。

2回目のサウナ前休憩に水を飲む。

あれ?備え付けの飲料水が異様に冷たい。こういうところってこれまであったっけ?思い出せないなぁ。まぁいいや。とにかく、うめぇ、とまんねぇ。ここまでキンキンかよー。最高かよー。

ちょろっと熱風呂、サウナ、水風呂、ぐびぐび、休憩、ちょろっと熱風呂、サウナ……

出ちゃってるー

飲んだ分だけ汗出ちゃってる

デチャウーーーーー

イヤイヤ、デチャッテルーーーーー

ヒャーーーーチベターーーーーイ

チベターーーーーイ

ウマーーーーイ

チベタウマーーーーイ

友人よ、これが大照湯みたいだ。だが、この良さを未就学児が知ってしまうのを私は恐れる。ニルヴァーナの際、何かの脳内麻薬が出ていてもおかしくない。それが成長にどんな影響を与えるのかが怖いのだ。テキトーに書いているから、知らないけど。

ただ、友人よ。未就学児だろうと中年男性だろうと、お肌はつるつるを超えてとぅるっとぅるになるのは間違いない。

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大満足で大照湯を後にしようとすると、入場前に目に入った何かの正体がわかった。

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すでに陽は落ち、逆光で見にくいが『協力井戸』と書かれている掲示物である。今まで巡った銭湯にもあったのだろうか?

そう、大照湯は井戸水を使用していることを明示していたのだ。だから、水風呂がキンキンなわけだ。飲み水がきれっきれっなわけだ。

きっと札幌市内には大照湯のように「地下水」を利用している銭湯がほかにもあるだろう。銭湯をその場所で始める理由として、井戸水があったからというのはありそうな話だ。

地下水を利用している銭湯ならば、豊富な水量が期待できる。

シャワーの水圧にも関係するだろう。水風呂の循環にも関係するだろう。ひいては水風呂の水温の違いも生むだろうし、飲み水の旨さにも違いが出るかもしれない。

なにより、地下水を沸かしているのなら温泉とのちがいなど紙一重のはずだ。個人的には地下水と温泉を沸かしたものは同じだ。「成分」ではなく、「印象」が、ね。

なにより、『いろはす』を沸かして風呂に入っていると思えば、こんな贅沢を440円で味わっていいのか!という背徳的な思いすら抱いてしまう。

友人の小さな疑問により、土産話を手に入れた。宿題があったゆえにいつもよりもアンテナを立てていた。だから手に入ったお土産である。

水道水の銭湯と地下水の銭湯がある。そして、大照湯は後者だ。

しかし、この話を披露するときは果たして来るのだろうか。なんだか来ない気がするのは、きっと気のせいではない。

記念すべき10湯目。まだまだ札幌市内の銭湯には新たな発見が待っているだろう。実に楽しみである。ありがとう、銭湯スタンプラリー。

次回、白石区南郷通7丁目『美春湯』