札幌(とか)の銭湯を(おふろニスタが)行く

家が火事になりましてね。風呂がないんですよ。で、チャリで札幌の銭湯を巡っていたら、いつの間にかおふろニスタになっていました。中年男性がお風呂が好きだと叫ぶだけのブログです。

2,南区澄川 風呂~楽

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札幌市民は、豊平川を中心軸に「西の人」と「東の人」に分けられる。

東側の人間は『街』(すすきの・札幌駅周辺・大通り・狸小路などを指す)へ行くためには川を越えなければならない。

円山動物園をはじめとするおしゃれタウン円山地区へ行くにしても同じだ。

対して、西側の人間は決まってこう言う。

「用事がなければ、そっちはいかないからなー」

判を押したように、中央区・西区・(一部の)北区出身者は同じ回答だ。

東の人は西の人を「上品で少しいけ好かないやつらだな」と思っている。西の人は東の人を「育ちが悪い」と感じている。

だから、西の彼らは知らない。いや、知れない。

東側の人間が愛用する平岸街道。その道沿いにたたずんでいる、誰もが不思議がるたぬきのモニュメントが目印の銭湯、「澄川温泉」が潰れてしまったということを。

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火事があってからしばらくの間、私は鷹の湯に通い続けた。もちろん毎回毎回、ニルヴァーナに達し、満足していた。

鷹の湯さいこー

鷹の湯初心者向けー

あほの1つ覚えと笑われても、自分が満足できる状態でいられる幸せをかみしめるのが、私は好きだ。

だが、鷹の湯はまたしても新たな出会いをもたらす。それが銭湯スタンプラリーである。

www.kita-no-sento.com

市内には42店舗のニルヴァーナポイントがあるらしい。5月までの私には、その全部をめぐる機会など永遠にこないはずだった。

だが、鷹の湯は出会いの湯。

鷹の湯で「札幌銭湯まっぷ」をゲットし、居候をしている家に戻ると早速第2湯を決める作業を始めることとなった。

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私の趣味は自転車だ。ただし、ガチ勢ではない。ガチ勢に間違われないよう、ママチャリによく似た赤いクロスバイクを選ぶほど慎重に生きている。

だから、そんなに長い距離は走れないし、ヘルメットをかぶるなんてもってのほかである。最初の条件は、遠からず、近からず。

そこで候補になったのが『澄川温泉』である。『澄川温泉』のうわさはかねがね聞いていた。

曰く、スーパー銭湯ブームの前からスーパー銭湯形式で営業をしているパイオニアである。

曰く、平岸街道に立っているたぬきのモニュメントがそれである。

ほどよい距離。そして、鷹の湯とは真逆な立ち位置。よりよいニルヴァーナの予感がする。

そう気がついたときには、私はもう走り出していた。

このように期待が大きかったゆえ、澄川温泉が潰れていたことを知った悲しみもまた大きかった。写真を撮る手も震えるというものだ。

不幸だ。きっと、これからの人生もこんなことばかりが起こるに違いない。ねがちぶな思考が頭を支配する。

今までの人生でもそうだが、私は自分の不幸に酔いがちだ。かわいそうな私、悲劇のヒロインを気取る私。気持ちの悪いおっさんだ。

ヒロトは言っていた。バカは不幸が好きなのだ、と。

思い直せ!今俺に必要なのは、ねがちぶではない。ニルヴァーナだ。

セブンイレブンで買ったライチジュースと頭にまとわりつく絶望感を投げ(方言)、私は赤い擬態チャリに乗り直した。

「札幌銭湯マップ」は本当に便利だ。南区のマップを見ると、澄川にはもう1つ銭湯があることがわかった。

絶望の中の一筋の光。『風呂~楽』である。よし、行こう!もう少し南へ!

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『風呂~楽』は住宅街の中にたたずんでいる。富良野に行くはずが、海を見てしまう私にはとても見つけにくい場所だった。

想定以上に汗をかいている。早く風呂を!早くサウナを!早くニルヴァーナを!

はやる気持ちを抑えつつ、服を脱ぎ、体を流す。あわてるな、せっかく来たのだ。まずはメイン浴槽から攻めるのが定石だ。

「深ッ!!」

思わず声が出る。風呂の中で足が「がこん」となる深さだ。ちなみに私は181cmあるが、そんなもの関係がない。圧倒的に深い。

「こっちは入ってほしいわけじゃねえんだ。入りたいやつだけ入りにくればいいんだよ」

そんな信念がビシビシと伝わってくる。それは鷹の湯とも通底するかもしれない。

広めの電気風呂が設置してあるのにも同じ思いが込められていそうだ。まだまだ初心者の私には電気風呂の楽しみ方がいまいちわからない。理解するには時間がかかりそうだ。

サブ浴槽に移り、サウナと水風呂の位置を確認する。そして、露天風呂の存在に気付く。

銭湯に露天風呂。

思いもよらない組み合わせだった。そこは初心者だから、少しくらいの偏見は、ね。しょうがないしょ?

入ってみると、ただ外にある風呂だ。打たせ湯と称してかなりの高さからお湯が落ちている。でも、『風呂~楽』は住宅街の中にある銭湯なのだ。四方を高い壁に囲まれており、見えるのはボイラーの煙を吐き出す煙突のみ。

「銭湯に露天風呂の意味はないな」

そうつぶやく自分の浅はかさに気がつくのはもう少し後の話だ。

 サウナに入ると先客が3人。温度は高すぎず、低すぎず、初心者の私にはちょうどいい。鷹の湯に似ているかもしれない。いつも通り、最後に入って、無理なく最初に出る。

恥かしくはない。1回目は準備運動だ。水風呂に入り、体を冷やす。こちらも冷たすぎず。いい感じ、いい感じ。

1回目の休憩に入るが、まだニルヴァーナはやってこない。2回目である。ここからが本番だ。

2回目のサウナで1人の常連に目がいった。先ほども入っていた、イスを持ち込み、ボイラーに向かって座っている男性。よく見ると笑っている。

笑っている?

そうなのだ。男性は笑顔だ。アルカイックスマイルで、ボイラーと向かい合っている。

サウナでニルヴァーナしてる!!!

直感した。彼のマネをすれば体験できる、今まで以上のニルヴァーナが!

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アルカイックはサウナから出ると水風呂に入り、脱衣所で休憩を取っていた。(私は洗い場で休憩していた)もちろんマネしてみる。あっ、こっちのほうがいいわ。

そのあとである。

彼は露天風呂に入っていった。

後を追うと、風呂には入らず、イスに座って、天を仰いでぐでーっとしている。横で同じようにぐでーっとしてみる。

ふわぁー、空と煙突しかやっぱり見えねぇなあ

あれ?

あっ、来る

なんか来る

クル

キテル

ナンカキテル

キテルキテルーー

キチャッテルーーー

ミエチャッテルーーー

エントツミエチャッテルーーーー

かつてないほどのニルヴァーナが押し寄せてくる。露天風呂の真の価値はこれだったのだ!ごめんなさいごめんなさいゴメンナサイゴメンナサイナサイナサイサイサイ。ハーーキチャッテルーーーー

それから何度ループしたのだろう。もはや思い出せない。

風呂~楽の常連、アルカイックは私に教えてくれた。

「工夫せよ。さらば与えられん」

おとずれるべき銭湯はまだたくさんある。そして、そのどれもが違う特徴を持っているはずだ。すべての銭湯でニルヴァーナを味わう。

こいつぁ、忙しくなってきやがった。

つぶやく私に不幸の影はまったく残っていなかった。

次回、豊平区美園 『望月湯』