東北以北最大の歓楽街すすきの。
札幌に観光に行くことはすすきのに行くことと同義だという若人は多いだろう。もちろん札幌市民の若人も同じように愛用している。
だからといって、札幌がすべて眠らないわけではない。
むしろ、眠らない街すすきのは札幌のごく一部であり、夜の闇に狐がまぎれている環境のほうが多いのだ。なぜなら、札幌市の面積のほとんどを南区が占めているのだから。
すすきのから南区へとつながる大きな道路を石山通という。この道を南に27条ほど行くと、そこに夜のやましさはなくなってしまう。あるのは藻岩山の夜景を中心にしたロマンチックなカップルたちの純愛とそれを経たファミリーたち向けの外食産業だけだ。
そこからあくびがでるほど南に進み続けるとロマンチックさがなくなって、ファミリーだけが住む場所になっていく。
さらに不安になるほど南へ行くと定山渓温泉へとつながっていく。
だが安心してもらいたい。そこはまだ札幌である。
以下は札幌市が公開している札幌市各区の面積一覧である。
平成29年10月1日現在
中央区46.42km2
北区63.57km2
東区56.97km2
白石区34.47km2
厚別区24.38km2
豊平区46.23km2
清田区59.87km2
南区657.48km2
西区75.10km2
手稲区56.77km2
南区のバカげた数字を見てほしい。以前、真駒内湯の項でも書いたが、南区には野良熊が出る。だが、冷静に考えるとこれだけ広ければ出ないほうがおかしい。
そんなやましい喧噪からは離れてはいるが、定山渓に行くよりは近い場所。そこに寿湯はある。
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写真を見ればわかるように寿湯はまばゆく光っている。石山通から少し中に入ったところ。明かりの少ない小路ゆえになんだかほっとしてしまう。
寿湯はかなり広い公衆浴場である。だから、ゆったりとしている。そして、きれいだ。
ゆったりとできるきれいな銭湯には必然お客さんが集まる。湯屋の華もきれいに咲いている。
どんな背景があろうと、誰であろうと、年齢がどうであろうと、銭湯は平等に全員が裸だ。
前を隠す隠さないは個人の哲学次第だが、湯船に入る前に体を流す、タオルを湯船には入れない、など裸がゆえにコモンセンスの有無、つまり人間性がむき出しで試される。
そんなコモンセンスの1つ、かけ湯・上がり湯を手助けするボディシャワーというものがある。
多くの銭湯では固定になっているので、体中にシャワーをかけるのは容易ではない。そのため、全身にシャワーを浴びやすくするための設備が銭湯の「ボディシャワー」である。
どこにでもあるわけではないが、珍しいものでもない。寿湯のボディシャワー以外は。
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寿湯には温と冷の2種類のボディシャワーが並んでいる。
冷ボディシャワーの心配りに気づくには、寿湯のサウナの性質に大きく影響されている。
寿湯のサウナは発汗性が強い。どんどん汗が出る。
私は銭湯に汗をかきに行っているわけではない。あくまで求めているのはニルヴァーナだ。
が、汗を大いにかいた後、自分の体調に合う水風呂につかると、より深いニルヴァーナが訪れるのもまた事実だ。
汗をかきたいわけではないが、汗をかくとより遠くまでとべる。よくできている。
とびにとび、つるっつるのぴっかぴかになる。
そして、こう思う。
「水風呂で最後しめたいけれど、結局上がり湯であったかいのかけなきゃいけないんだよなぁ」と。
そんなニッチな欲望にすら答えてくれるのが、寿湯の冷ボディシャワーである。
欲張りな客の心を先読みするかのような心配り。この細やかな気づかいに、ただただ頭が下がる思いだった。
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人間は知れば知るほど、欲深くなってくる。はまればはまるほど不平や不満を持つようにもなる。そして、知る。それすらも超えたところで顧客のことを考えている思いやりの心があることを。
寿湯の小さなおもいやりが肌寒い自転車での10kmを少し温めてくれたような気がした。
2018年10月現在、そろそろ走行距離は1000kmに達しそうである。
次回、豊平区美園『松竹湯』