札幌(とか)の銭湯を(おふろニスタが)行く

家が火事になりましてね。風呂がないんですよ。で、チャリで札幌の銭湯を巡っていたら、いつの間にかおふろニスタになっていました。中年男性がお風呂が好きだと叫ぶだけのブログです。

18,中央区南9条 山鼻温泉 屯田湯

f:id:tkasaiii:20181218143032j:plain
「温泉と地下水の銭湯との違いは何か」
銭湯(初心)者として経験を幾ばくか積んでくると、この疑問と向き合わねばならない。より愛するためには、相手のことをもっと知る必要が出てくる。それくらいは知っている。
グーグル先生によると『温泉法』という法律により、温泉とされるためには明確な基準が設けられているようだ。
こちらに丁寧に解説されている。
www.spa.or.jp
いやはや難しい。つたない私の理解力でわかったのは以下の3つ。
①温泉と名乗るためには25℃以上必要
②ただし、決められた成分が1つでも基準を上回れば、25℃以下でも温泉を名乗れる
③①は②に優先され、たとえ純水でも25℃を上回れば温泉である
ということは、「いろはす」がもともと25℃以上であれば、天然水とは呼ばれず温泉とされていたのだ。
つまり、地下水を沸かしている銭湯は「いろはすを使った風呂」と言える。どうだろう。こう書くと、温泉よりも札幌の地下水を沸かしている銭湯のほうがずっとぜいたくな感じがしないだろうか。
だが、温泉だ、地下水だ、水道水だ、それは気の持ちようでどうにでもなるちょっとした違いでしかないのかもしれない。それにこだわるくらいだったら、どんなものでも楽しめる心持ちこそを大事にしたほうが人生は楽しくなるはずだ。
とはいえ、いろはす派ではない、かつ、成分にこだわりがあるという方がいてもいい。そんな人を満足させられる銭湯がもちろんある。しかも、私のわずかな銭湯経験でさえ、2つも紹介できる。札幌の公衆浴場の懐は深い。
1つは、以前記事にした特徴ある地下水を使用している『北都湯』
2つ目は、温泉法に基づいた温泉を銭湯風に楽しめるこの項のテーマ『山鼻温泉 屯田湯』である。
ーーーーーー
私は重度のアトピー持ちである。
季節の変わり目にはアトピー症状が出るし、かつて私の体に猛威を振るっていた傷跡は今でも色濃く残っている。
銭湯巡りによって肌はつるつるになってきているのだが、いかんせん裸になると背中とおしりに黒色の色素沈着が目立つ。個人的には銭湯で隠したいのは前よりもこちらの汚い背中とおしりのほうだ。が、それはあまりに奇妙な光景なので実現できず、悩んだ結果何1つ隠さず丸出しの中年男性になっている。
いきなりのおじさんの裸体描写で申し訳ない。しかし、この事実は、私がかつて「成分派」であったことの根拠になっている。
若いころ、私は枕に書いたような銭湯博愛主義者ではなかった。むしろ、アトピー原理主義者の成分過激派だった。自分の弱い肌とメンタルを潤すための成分を温泉に求めながら、少しでもピリッと来たら、ぼろくそに語る。
求めるものが大きすぎるがゆえに、それを満たしてくれないものはすべて否定する。厄介極まりない。そんな過去を持つ男だ。
今は主義を変更したとはいえ、「温泉」の合う合わないの不安は頭をよぎる。銭湯を愛し始めたために、温泉を愛せるかどうかに自信を持てなくなっていた。
なんだ、こいつ。
と書きながら思う。困ったものだ。
ーーーーーー
屯田湯には温泉がある。けれど、サウナがない。いきなり不安をあおってしまう書き方かもしれない。だが、安心してほしい。
銭湯に必要なのは銭湯を楽しむ心だ。それがあれば、どこででもトベる。そう、水風呂がない松竹湯でニルヴァーナに達せたように。
工夫次第でニルヴァーナには到達できる。銭湯に楽しませてもらう側に立つか、銭湯を楽しむ側に立つか。もうすでに答えの出た2択である。
主浴はむき出しの温泉。成分は「ナトリウム塩化物強塩泉」らしい。「強」の字。これは大丈夫かどうかひるむ表記だ。でも、実際にはアトピコのおじさんの肌にもやさしくて、少しもピリピリしなかった。それは何よりも重要だ。かつての過激派もにっこりである。
主浴の横には、天然温泉なのに紫色に染まっているサブ浴槽。
温泉なのに、紫って!
これをエキセントリックと言わずして、何といえばいいだろう。むっはーとなりながら移動する。ニヤニヤが止まらない。美人が厚化粧をしているおもはゆさ。グッとくる不器用さではないか。
だが、これは屯田湯の入り口に過ぎない。屯田湯のもっとも尖った特徴は水風呂なのだ。
ーーーーーー
サウナがない分、体を温めるには時間がかかる。主浴はあつ湯ではないし、副湯もまた同じ。そのために、必然お湯を楽しむ時間が長くなる。そのお湯は温泉である。なんとも術中にはまってしまっている気分だ。その術中、決して嫌いではない。
そして、くだんの水風呂。
入ってみて驚きのあまり笑ってしまった。
もうね、ぬるい!
すんごいぬるい!
今までで随一のぬるさ!こんなの初めて!
望月湯のチンチンのジェット水風呂・七福湯のチンチンのバイブラ水風呂・千成湯のキンキンのバイブラ水風呂。冷たさのオンリーワンたちとは真逆にある屯田湯のぬる水風呂。
穏やかな温泉成分。穏やかな湯温。穏やかにあたたまった体は、穏やかに冷やすのがふさわしいと思えてくる。
なによりぬるいから苦もなく長ーく入っちゃうのだ。
それはそれは長ーく入っちゃってんのだ。
苦もなく入っちゃってんのよ。
クモないのよ。
入っチャッテンノヨ。
オダヤカよ。
クモのマニマニとんじゃっテンのよ。
そんな風に楽しんでいると、洗い場から「水です!」という浴場に似つかわしくない大きな声が聞こえてきた。
ーーーーーー
「水です!」ジャバー
「水です!」ジャバー
「水です!」ジャバー
「水です!」ジャバー
「水です!」ジャバー
浴内に何度も声が響く。若衆が掛け声とともに、湯屋の華咲く偉い人に桶の水をかけている。水の入った桶は若衆の横に山積みになってピラミッドを作っていた。
親分と若い衆。ここはすすきの。一見さんの私には物珍しい湯屋の一幕である。ニルヴァーナから帰ってきた私は、好奇心に駆られてその光景をじっと見つめていた。
ある場所の非日常は、別の場所の日常だ。それを片側から一方的に否定することはたやすい。そう思っても、目の前で行われていることの意味がよくわからない。
なぜ水風呂があるのに桶にくんだ水をかける必要があるのだろうか。なにかの儀式だろうか?
とはいえ、「なにしているんですか?」と直接聞くことはできそうもない。まったく意気地なしである。
私が水風呂から上がっても「水です」の掛け声は続く。ともかく私は私で自分のルーティーンを始めよう。人それぞれ楽しみ方がある、それでよかろうなのだ。
水風呂の次は休憩、その前に水分補給だ。
水風呂から上がり、飲料水を飲みに蛇口を目指す。
「くぅー、キンキンに冷えてやがる!!!」
ぬるい水風呂からは想像もできないくらいのキンキン具合である。だからって、私には水の違いなどわかりはしない。うまいと思ったところでこれが地下水かどうかはなぞだ。というか、温泉で地下水なんてあり?
いや、ちょっと待て。
さっき若い衆が桶に入れていたのはこの飲料水だった。ということは、「水です」は水風呂よりも冷えた水がほしいがための光景だったということか。
ん?ってことは屯田湯はキンキンの水風呂を作ることは可能なのに、あえてぬるい水風呂にしているっていうことにならないか?
ってことは、オンリーワンの水風呂が意味するもの。
それは、源泉かけ流し!
うわー、ぜいたくな話じゃないこれ!
謎はすべて解けた!じっちゃんの名にかけて!
※じっちゃんは無名の農民です。あってるかどうかは知りません。
ーーーーーー
屯田湯。「銭湯感覚の温泉施設」だけでは説明できない魅力があった。それはすすきのという場所にあるということも一因だろう。
札幌を札幌たらしめているところ、それはいい意味でも悪い意味でもすすきのだ。
北海道の自然を堪能するならば、札幌は適してはいない。それ以上の場所がありすぎる。自然が目当てなら世界遺産の知床はいかがか。知床の岬でハマナスと熊を見る以上の体験はない。
最高の海の幸を堪能するならば、やはり海そばの街、たとえば増毛(ましけ)あたりに行ってみるといい。現地の日本酒をとれたての肴で堪能できる。釧路も乙だ。苫小牧でホッキに抱かれてみるのもおもしろい。
ラッキーピエロは函館にしかないし、五郎さんの石の家は富良野にある。
では、札幌にだけあるものは何か。
やはりすすきのである。
北海道開拓のはじめ、「男が頑張るには女の肌っしょ」と政治家が舵をきって作った場所、すすきの。そこにある銭湯は半世紀以上そんな場所に根付いているわけだ。私のすすきの銭湯巡り、それは札幌の歴史巡りと言えるのかもしれない。……し、言えないかもしれない。

次回、中央区南19条 鶴の湯