仲間に入らないとはどういうことなんだろう。
私は多くの場面で仲間に入れなかった。クラスメイトの談笑に。先輩後輩の関係性に。職場の派閥に。
入りたくても入れなかった。自分だけが気がついたら輪の外にいた。
気がついたら胸が焦げるほどの「仲間」への渇望が膨れ上がっていた。そのためなら、自分の思いや考えなどいくらでも捻じ曲げてしまうくらいの歪んだ欲望。
その不健全な疚しさなど、非組合銭湯である月見湯にはない。組合という仲間の輪の中にいないにもかかわらず、だ。
そこにどんなドラマがあったかなど、私にわかりようもない。だが、伝わる。私のような狭小さとは真逆の物語があったのだと。
月見湯に行けばおそらくあなたにもわかる。
入「れ」ないのではなく、入「ら」ないという強い信念を。
我が道を行くのだ、という志を。
この場所で、この地域に、自分の責任で、貢献するのだ、という確固たる決意を。
ただ、月見湯はそんな押しつけがましい思いに満たされている場所ではない。
お風呂を愛している。
サウナを愛している。
生活の中に心地よさを提供し続ける自信を持っている。
そんな温かさのほうが、より満ち満ちている場所だ。
お風呂を愛し、サウナを愛し、生活の中に心地よさを求めている人は、月見湯に行けばすべてが解決するだろう。
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月見湯の存在は、実はスタンプラリーをしている間も常に意識していた。非組の銭湯。組合所属の銭湯と何が違うのか。それは個人的な興味だった。
スタンプラリーを終え、スーパー銭湯を中心に自分のおふろ経験値をあげる作業にいそしんでいるとき、ふと月見湯のブログ(https://ameblo.jp/supersenntoutsukimiyu/)で見つけてしまった。
『サウナイキタイのステッカー差し上げます』
スーパー銭湯巡りはいったん中止だ。
これは女房を質に入れてでも行かんと!(独身)
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月見湯の料金はさつよく所属の銭湯より20円安い420円。(数値を改ざんしながら好景気を演出していたくせに消費税を上げるという無茶な政策の影響で、10月から440円になるようだ。それでも、さつよく料金よりも安い。)
明らかに安すぎる。
お値段以上どころの話ではない。
なぜか。それは月見湯にはなんでもあるからである。
大きな駐車場。きれいな庭園。広いロビー。美しい受付の女性。収納たっぷりの脱衣所のロッカー。入口出口が分けられた浴場の自動ドア。水圧の強いカラン。熱い主浴。電気な電気風呂。バイブラ副湯とジェットバス副湯。ラドン個室風呂に露天風呂。その横に寝転がれるベンチ。中に飲み水があるスチームサウナと、熱々のサウナ。キンキンに冷えてやがる水風呂に、たくさん設置された椅子。行き届いた清掃。真新しいドライヤー。
「いやいや、あれがないでしょう」などという人はいまい。これ以上何か必要だという性格ならば、その人はずいぶん厄介だ。『ある』ものがこれほどあるのに、あえて『ない』ものを探そうという精神性は生きるのがさぞや大変だろう。
だが、そんな人ほど、月見湯に行くべきだ。
サウナで流した汗を水シャワーでおとし、水風呂に入ろう。その足で露天風呂横の寝転がれるベンチに行けばいい。
できれば、夜がいい。
今まで何もないと思っていた空に、きっとあなたは今まで見落としていた星を見つけることができるだろう。
そして、思うのだ。「前に星を見たのはいつだったっけ?」と。
そうか、あれはまだ小学生のころだ。
隣の席のさとみちゃんと話すだけでドキドキしたっけ。
そうだ、その席が近いメンバーの班で行った宿泊学習のときに見た星空が最後だ。
何年前だ?
さとみちゃん、元気かな。
きっと結婚して、子どももいるんだろうな。
俺、人をねたんで、『ある』ものを見ないようにして、『ない』ものをわざわざ見つけて批判するような大人になっちゃったよ。
きっとさとみちゃんはそんなやつ嫌いだよな。
そういえば、俺も昔は、そんな大人が大っ嫌いだったな。
どうして俺は、俺が嫌いな大人になろうとしちゃったのかな。
まだ間に合うかな。
まだ俺、変われるかな。
マダオレ、カワレルカナ
カフェオレ、カワッテルカナ
イツカラコーヒーギュウニュウハカフェオレッテヨバレルヨウニナッタノカナ
ナッタノカナ?
ナ――――――!
ほらね、ひねくれものほどニルヴァーナなのよ、月見湯は。
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「あの、サウナイキタイのステッカーがもらえるってブログで見たんですけど……」
私は妙齢の女性を前にすると緊張するのだが、サウナイキタイのステッカーのためならこれくらいの勇気は出せる。
「ありがとうございます!ブログみてくれたんですね!」
なんてさわやかなんだ!まぶしい!
「このステッカー素敵ですよね、私もほら」とスマホの裏面に貼られたサウナイキタイのステッカーを見せてくれた。
「またよろしくお願いしますね!」
いくらひねくれ者とはいえ、こんなに素敵な場所なんだから、また、と言わず、何度も何度もリピートするに決まっている。
そういうふうにできている。
それが、月見湯なのだ。