2-3,豊平区平岸 千成湯
1年ほど前だろうか。
サウナブームがこれほど一般に浸透する直前、 DDD@サウナ愛好家 (id:DDDtenkinzoku)さんが『ラブホサウナ』なるカテゴリーを切り拓いた。
このファーストペンギンの行動はサウナ愛好家に瞬く間に飛び火し、果てはタナカカツキ先生の漫画『サ道』に「ラブホサウナを1人楽しむ男性」というエピソードが出てくるまでに発展した。
「サウナ」と「ラブホテル」というミスマッチ。
「ととのう」と「性交」という快楽の交錯。
そこに漂う淫靡と背徳の魅力は、おふろの気持ちよさを追求してきた者として、目が眩むほどだった。
だが、そう感じたのは私だけではなかった。
ファーストペンギンが作った道程は、俗に『ラブホサ活』と表現され始め、当初は絶妙なバランスで保たれていたはずの『性』と『ユーモア』の比率がすぐにぐらぐらと揺れるようになる。
ある日、サウナイキタイ - 日本最大のサウナ検索サイトに、「サウナのあるラブホテルで自分がどんな相手とどんなセックスをしたのか」を報告する文章が投稿された。(ちなみに札幌での話だった)
そこから上がったちっちゃな炎は局所的に燃え上がり、投稿された文章は運営から削除された。こうしてファーストペンギンが見つけたせっかくの「おもしろ」はあとを追う者によって「滑稽な活動」の枠の中に押し込まれた。
新しいユーモアの道と光はあっという間に閉ざされてしまった。
私は悔しかった。
「淫靡」「背徳」「快楽」
いずれの存在もサウナとは近しい。少なくとも、私はそれらを求めて銭湯に足しげく通っている。
ラブホサウナをはじめ、サウナ自体が『性』と『ユーモア』のタペストリーたりうるはずだった。だからだろうか、このせっかく切り拓かれた道を「ここで終わりにするわけにはいかない」という使命感が私の中でメラメラと燃えがった。
その執念の結実がこれである。
前回、千成湯に行った子どものころの思い出をノスタルジックに書いたというのに、1年でずいぶんやましい大人になってしまったものだ。
だが、このサ活が気合の入っている文章であることは間違いない。
入浴という行為がいかに官能的か。それは快楽であり、淫靡であり、背徳的なのか。おらが街の銭湯・千成湯を舞台に『上品ないやらしさ』をテーマに頑張った。大変だった。
正直に言おう。
このサ活以上に千成湯を魅力的に描き切る自信はもうない。
でも……
出ちゃった。
そうだよね。出ちゃうよね。
大丈夫か……?
大丈夫なのか、俺……?
ーーーーーー
ある日の仕事終わり。
時間は21時を超えている。
近場とはいえ、閉店22時まで時間がなさすぎる。たどり着くまで10分。正味40分の猶予しかない。
頭の中では千成湯での過ごし方のシミュレーションが始まる。
第一洗身(入浴前のマナー)は頭と体を一気に石鹸でいっちまって時間短縮だな。そのあとはさっと主浴に入ったら、ジャイアントセットに切り替えて、休憩はぬる湯だけにしておこう。ぬる湯ってほどぬるくないけど寝湯の冷や枕に首元きっちりくっつけてたら、いけるっしょ。千成湯はサウナがいいから、これでばっちりだ。で、第二洗身で洗髪を美園シャンプーととげとげブラシのコンボでキメて、体はタモさん流入浴でさらりと流す程度にすれば時間短縮だな。で、しめは何かを1セットだよな。たぶんサウナに入る時間はないから、主浴と水風呂の交代浴でフィニッシュ。これで行こう。大丈夫。俺ならやれる。
ペダルを踏む脚も、ハンドル操作も気もそぞろになってしまったが、それでも計画は決まった。
だが、このプランはもろくも崩れることになる。
ーーーーーー
千成湯はフォントがいい。
看板も、掲示物も、ゴシックできっちりかっちりババババンと書かれている。
とはいえ、時間がない。迅速に全裸になり、弾丸のように体を洗う。主浴からのキンキン水風呂。からのサウナ。
この独特な香りが千成湯だ。
いいね。
こじ開けられる。
ねじ込まれる。
穴という穴が拡張される。
いや、いいのよ、それはもういい。
で、水風呂。
体中がギュンっと締め付けられる。
縮こまる。
私の大塩平八郎の乱が半日で鎮静化される。
いや、だから、そういう場合じゃない。
ーーーーーー
急ぎ足のジャイアンセットを終え、寝湯へと進む。
そこまでキマりはしないだろうけど、まあしょうがないよね。短時間だし。
あっ
待てよ。
ここで電気風呂か……?
琴似温泉の電気風呂ゆるゆるでよかったからな。千成湯でもちょっとびりびりしてみる?びりっちゃう?いっちゃう?
……ッ!?
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ば@いhdふぃがh@いおsふあり@てゃいg
いってええええええ
透けてない?
俺、今、骨透けてない?
やばい。
時が見える。
見えないものが見えてきた気がする。
いや、あれは時じゃない。
なんだ、あれ?
サ?
『サ』って何?
でも、あれ『サ』じゃない?
間違いない『サ』だ。
あれ『サ』だーーー?
ーーーーーーー
電気風呂に入ったあたりから記憶があいまいだ。
でも、私は確かに『サ』を見た。
忙しくて見た夢なんかじゃない。あれは『サ』だった。大丈夫。私はよくない薬は飲んでない。
意味がわからない?
私だって意味がわからない。
でも、サウナ→水風呂→電気風呂を千成湯でキメたとき、痛みとともに目の前に『サ』が浮かび上がるはずだ。それは激しい痛みだ。とてもとても激しい痛みだ。1日にあった嫌なことをすべて吹っ飛ばす圧倒的な痛み。
その先に私の言っている意味がわかる。
だから、千成湯に行こう。
そして、『サ』をあなたの目で確かめよう。
千成湯が近くになければ、地域の銭湯に行こう。
それをきっかけに、あなたの人生に新しいユーモアの道と光がさすかもしれない。少し淫靡で背徳的な快楽を添えて。
次回:中央区南10条 大正湯