札幌(とか)の銭湯を(おふろニスタが)行く

家が火事になりましてね。風呂がないんですよ。で、チャリで札幌の銭湯を巡っていたら、いつの間にかおふろニスタになっていました。中年男性がお風呂が好きだと叫ぶだけのブログです。

34,東区北10条 北光湯

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人生はつらい。

私はこの前提で生きている。

だから、ただ生きるには人生は長すぎる。長すぎてやめたくなる。でも、やめちゃったら、死んじゃう。だったら、せめて少しでも人生を楽しくする努力は意識しなければならない。

しかし、つらいものを楽しもうというのだから、その作業は命がけだ。ちょっとやそっとの覚悟では弾き飛ばされてしまう。

私だって、本当は人生を楽しませてもらいたい。「誰か私を楽しませてくれないか」とお星さまに願うことだってある。なんだったら、3日に1回は祈っている。でも、その願いはいつも届かない。

楽しませてもらうにはどうしたらいい?

ガールズバーに通いつめればいい?

だめだ、妙齢の女性は緊張する。

30分間2万5千円の過ちを犯せばいい?

そんな金はない。

酒か?薬か?ギャンブルか?

一時の快楽に溺れて、楽しくなれるほど、もう若くはない。

楽しませてもらう方向性はおそらく向いていない。とても残念で悔しいが、しょうがない。

そんな私が苦肉の策で編み出した結論は「楽しませてもらえないなら、なんでも自分で楽しめばいいじゃない」といういたってシンプルなものだった。

すべてのものごとに楽しさを見つけられる心を持てれば、おそらくつらい人生だって、そんなに長くは感じないはずだ。

その哲学を身につけた私は、自分のやっている『銭湯自転車巡り』のすばらしさにやっと気がつけた。

『おふろ』と『自転車』との親和性はあまりにも高い。人生を楽しむためのツールとしてあまりに優秀なのだ。

体の疲労が高まれば高まるほど、おふろのよさを引き出す準備ができる。過酷であればあるほど、振れ幅があればあるほど、ずっと遠くまで行ける。

薬も、ギャンブルもいらない。ガールズバーも、30分2万5千円の過ちもいらない。お酒はほしい。

それくらい気持ちがいい。

この『疲労』も、自転車で得られる疲れというのが、いい。

出口の見えない精神的『疲労』ではなかなかうまくない。それは、おふろの気持ちよさを引き出すスパイスというよりは、おふろによって軽減してもらう類のものだ。

その点、自転車はペダルを回すだけの単純な運動のため、体の負担はそこまで大きくないから私のような中年にもできる。それに、どんなに疲れたとしても、ペダルさえ回していれば、いずれゴールにたどり着ける。ゴールの見えない精神的苦痛に比べたら、なんと幸せな痛みだろう。

空腹が最高の調味料であるように、肉体的疲労はおふろの最大のスパイスなのだ。

だが、今回の北光湯アタックのようなやりかたはちょっと気持ちの作り方が難しかった。

小ぬか雨降る中、自転車でずぶぬれになり、仕事終わりに、スタンプラリーのスタンプを求めて、おふろに行く。さっぱりしたあとにまた雨に濡れてびちょびちょになることを理解しながら。

気持ちよかったけど、すごく気持ちよかったんだけどさ……

苦しみをわざわざ味わいたいわけではないんだよね。

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閉店間際の平日の銭湯にただよう雰囲気を乱すのは少し申し訳ない。暖簾をくぐると、BTTFに出てくるドクのような店主が私を見て少し驚いていた。

それはそうだ。

もうお客さんは来ないだろうと思っていたところに、黄色い合羽を着たずぶぬれのおじさんがあらわれたのだ。妖怪だと思われても仕方がない。

さっそく脱衣所で濡れた衣服を脱ぐ。すると掲示物が目をひいた。

ポスターではない。

「書」だ。

ちょっとした注意書きの掲示物がすべて達筆な筆文字で書かれている。掲示物というより、それらは「作品」だった。

ドクが書いたのだろうか。だとしたら、とても素敵だ。ドクの容貌と書の雰囲気がぴったりなのだ。

浴場は熱めの主浴と薬の副湯、1人用のひえひえ水風呂とスチームサウナ。

シンプルなラインナップではあるが、北光湯の浴場はなぜか私に儀式的空間を思わせる。

音がない。

光が明るすぎない。かといって暗すぎでもない。

先客もいらっしゃるのだが、それぞれが沈黙を守っている。

穏やかな空間に、日常の中の非日常の演出がなされていた。

この場所で、時間がなくあわただしく動くのはあまりにも場違いだろう。

数度の交互浴と、マイルドなスチームサウナと水風呂を数度。

大きなニルヴァーナは求めずとも、小さくても確かな幸せを味わえればそれでいい。

小確幸だ。

しょうかっこうのつみかさねがだいじなのだ。

ショーカッコー

ショーショーノショーカッコー

ショーショーノショーカッコーヲショーガッコ―デ

ショーショーノショーカッコーヲショーガールトトモニ

そうなのだ。

体が疲れているとすぐニルヴァっちゃうのだ。

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自転車に乗りすぎて、私はあまりにもちょろい体になってしまったようだ。

ただ、せわしない入浴はなかなかにむず痒い。もう少しゆっくりと時間を過ごしていたい。

そう考えると、ちょろい体になってよかったのかもしれない。でも、なんだろう。自分がちょろい体であることがなんだか恥ずかしく感じる。

たぶん年齢のせいだろう。

次回、北区北31条『渥美湯』